ロシア国防省はウクライナ侵攻において19日、20日と立て続けに極超音速ミサイル「Kh-47M2 キンジャール」を使用したことを発表した。ロシアが実戦で同兵器を実戦で使用するのは初めてと思われ、極超音速兵器が実戦で使用されるのも世界初となる。しかし、疑問なのが、なぜ、このタイミングで極超音速ミサイルを使用したのかという点だ。極超音速兵器の使用が必要な状況ではなった。
Kh-47M2 キンジャールとは
ロシアは極超音速兵器開発において世界をリードしており、世界で最初に運用を始めた。Kh-47M2 キンジャールは2017年末から運用が開始され、2018年の軍事パレードで初めて公の場でお披露目された。航空機搭載型の兵器で要撃・局地戦闘機であるMig-31や爆撃機Tu-22M3に搭載、空中から発射される。一般的に極超音速兵器は音速の5倍、マッハ5以上の速度で飛ぶ飛翔体の事を指し、キンジャールの最大飛行速度はマッハ10~13とされている。航空機の飛行範囲も含んだ攻撃範囲は2000~3000kmになる。核弾頭も搭載できる。
迎撃が難しい極超音速兵器
極超音速兵器はそのスピードから防空システムの対応に十分な時間が確保できない上に、迎撃ミサイルを打ち上げても速度が足りず追いつくことができない。最後の手段として弾道予測をして先の軌道上で迎撃する方法があるが、NATOのミサイル防衛システムを突破して標的を攻撃するために開発されたキンジャールには軌道変更可能な操作機能があり、軌道を予測することが不可能だ。つまり、従来の防空ミサイルシステムでは迎撃不可能とされている。
ウクライナの迎撃ミサイルシステムはほぼ皆無
キンジャールは本来、強固な防空システムを擁するNATOの軍事施設や艦船を攻撃するために開発された兵器で本来、攻撃が難しく、戦果が大きい標的に対し用いられる兵器だ。だが、ウクライナ軍のミサイル迎撃システムはほぼ機能していなく、極超音速ミサイルを使用しなくとも通常の弾道・巡航ミサイルでも標的は十分攻撃可能だったはず。ましてや標的は武器庫で、しかも、それほど軍事的評価の高い施設でもなく、わざわざ最新鋭兵器で機密要素の高いキンジャールを使用するほどではなかった。なぜ、ロシアはこのタイミングで極超音速兵器を使用したのだろう。
実戦でのテスト
理由は2つ考えられ、一つ目が実戦での検証だ。キンジャールはテストや演習では度々使用され、標的の攻撃に成功しているとロシア側は発表しているが、実戦での運用実績はない。そこで、実際の戦場下での有効性を確かめたっかのかもしれない。
NATOへの牽制
Russia fired the Kh-47M2 #Kinzhal for the first time in anger on Friday, taking out nearly half a billion dollars worth of NATO weaponry in a hangar in West Ukraine. pic.twitter.com/v0kbEa0orz
— Postcards of the Hanging(s) (@tony_hambleton) March 20, 2022
そして2つ目がNATOへの牽制だ。実はNATOはキンジャールの能力に懐疑的な意見を述べていた。ロシアがテストに成功したと言ってもロシア側の発表であり、信ぴょう性はない。そこで、実際に使用したところを見せて、NATOに警告を与えたかった。ポーランドにあるイージス・アショア、パトリオットミサイルでも迎撃が不可能という事を示し、NATOが介入すれば「キンジャールを使って攻撃するぞ」という意志を示したかったのかもしれない。しかし、アメリカは発射が本当であっても「軍事的には実用性はない」と述べている。ロシアは地下にある弾薬庫を破壊したと述べたが、その割には爆発が小さい上に着弾地点は農村部になる。2度ともこれといった軍事標的を標的にしておらず、警告を与えるならもっと、明確な場所を標的にするはず。もしかするとまだ制御可能な精度を持っていないのかもしれいないし、使用したことも嘘かもしれない。そもそも、使用したことを公表する必要もないのだ。