東欧のセルビアは8月29日木曜、フランスのダッソー社が開発生産するラファール戦闘機12機を購入する契約を締結した。セルビアはバルカン半島の国の中でもロシアよりだが、西側製の戦闘機を購入したことは大きな変化と捉えられている。
フランスのマクロン大統領はセルビアの首都ベオグラードを公式訪問し、アレクサンダル・ブチッチ大統領と会談。大統領自らのトップセールスの影響か、セルビアはフランスのダッソー・アビエーションからラファール戦闘機12機を購入する契約を締結した。フランスメディアやロイターの報道によれば、12機の内訳は単座型9機と複座型3機になり、契約総額は27億ユーロだという。ブチッチ大統領は記者会見で、購入価格には補給パッケージ、予備エンジン、部品もサポート含まれると公表。大統領は「ラファールクラブの一員になれてうれしい。この決定を下し、新型ラファールの購入を可能にしてくれたフランス大統領に感謝する」と述べた。これに対し、マクロン大統領は「素晴らしいニュースだ。これは変化であり、欧州の平和に貢献するからだ」と語っている。
ロシア離れするセルビア
コソボ紛争の際、ロシアの支援を受けたセルビアは親ロシア国として知られており、ロシアにとっては衛星国のベラルーシを除くと欧州の中では最も親密な同盟国の一つだ。ウクライナ侵攻を受けてロシアが欧米から制裁を受けた際もセルビアは反発している。国内でもロシアを支持する市民は多い。ロシア軍とは国内で毎年、共同軍事演習を行っていた。しかし、ブチッチ大統領はロシアによるウクライナ侵攻に反対、制圧したウクライナ4州、及び2014年に一方的に併合したクリミアの領有権についても反対する姿勢を見せており、最近はロシアと距離を置いている。今回、購入したラファールも保有するソ連製戦闘機のMig-29の後継となる機体だ。これまでの関係を考えれば後継にロシア製戦闘機を選択するのが筋だが、ロシアが現在、戦争中で兵器の海外輸出がままならない状況を踏まえたとしても、ロシアと敵対する西側製戦闘機を選択した事はロシアと距離を置くメッセージだろう。ちなみにセルビアは中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に参加するなど、近年、中国との関係も深めており、中国製を購入するという選択肢もあった。
反発の多いラファールの売却
マクロン大統領はセルビアへのラファールの売却を「欧州の平和に貢献する」と述べたが、それは批判を交わすための方便とも言われている。ロシア離れが進んでいるとはいえ、未だロシアの友好国であり、中国との関係も深めている。また、コソボの独立問題が解決しておらず、セルビアはその当事者である。2021年からセルビアとコソボの国境付近では小競り合いが度々起きており、コソボの独立を認めないセルビア民族主義者による銃撃などで死者が出るなど、両国は軍を国境に配備するなど緊張状態が続いている。そのような状況の中でセルビアへの兵器売却は周辺国から批判されている。そして、面白くないのが隣国クロアチアだ。クロアチアはユーゴスラビア解体の際、1991年に独立宣言するも、セルビア軍の侵攻を受け、4年に渡って戦争を繰り広げて独立を勝ち取った経緯がある。そのクロアチアも実はラファール戦闘機を配備している。しかも、セルビアが今回契約締結した数と同じ12機だ。最初の6機が2024年4月に納入されたばかりで、残りの6機は2025年中に納入される予定だ。ラファールを手に入れたクロアチア空軍の戦闘能力はセルビア空軍を上回っていたわけだが、それが均等なる。クロアチアにとっては面白くないだろう。