1シーンで使用した火薬量がギネス記録を更新した話題のフィンランドの戦争映画「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」。6月22日からの公開に先立ち、試写会に招待頂いたので、早速、劇場に見てきました。
正直、見る前はあまり期待していなかった
北欧映画のイメージというと北欧デザインのような洗練されたシンプルさ。筆者の印象に強いのは邦画にはなるがヘルシンキを舞台にした「かもめ食堂」のような、おしゃれで淡々と過ぎる文学的なイメージがはあった。正直いうと私のあまり得意ではないジャンル。
「ん~、北欧映画か~」
「火薬の量と言っても1テイクだろ」
「フィンランド史上最高の製作費と言っても10億だろう」
「1シーンでも盛り上がる戦闘シーンがあるといいな」
と正直あまり期待値は高くなかった。
大半を占める戦闘シーンとリアルな描写にびっくり
映画が始まると戦地に向かう若い兵士と女性が分かれるシーンが描かれる。きれいなシーンだ。「やっぱり、こんな感じか」と思ったら、そのようなシーンはすぐに終わり序盤から予想外の戦闘シーンが続く。
その戦闘の描写が非常にリアルでいきなりスクリーンにくぎ付けになった。序盤から期待は見事に裏切られた。戦闘に戦車や戦闘機の登場はそう多くはない。その分、戦場を遠巻きに俯瞰して見るようなシーンは少なく、兵士に近い目線で戦場が描かれており、非常にリアルで、緊迫感ある戦闘シーンが描かれていたのだ。
リアルなのはカメラワークや演出だけではない
そのリアルな戦闘シーンはギネス記録の火薬量やカメラワークだけではない。キャスト陣やスタッフの経験からくるところが大きい。フィンランドは徴兵制を採用しており、18歳以上の全ての男子には6か月~12か月の兵役義務がある。つまり、映画に出てくる人は全員軍隊経験者なる。俳優だけではなく監督、スタッフ含めた全員である。ハリウッドの戦争映画で俳優陣が撮影前に短期間ブートキャンプに参加するのとは訳が違う。映画同様に国を守る為に訓練をしていたのだから、これは映画だが、基本的に彼らがやっていることはリアルなのである。
そんな、リアルな戦闘シーンが見れる「アウンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場 」は6月22日(土)より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショーされます。
アンノウン・ソルジャーについて
フィンランドではフィンランド映画史上最も動員した映画になり、製作費もフィンランド史上最高額。1テイクに使用した火薬量はギネス記録というフィンランド史上最高の映画となる。
原作
本作の原作である小説「アンノウン・ソルジャー」はフィンランドでは知らない人はいないと戦争文学の傑作になり、作者本人が経験したフィンランドの戦争=継続戦争の実相を赤裸々に描いたものである。同作の映画化は1955年、1985年の3度目の映画化になり、いかにフィンラン人から親しまれているのかが分かると思う。
継続戦争とは
第二次世界大戦における太平洋戦争と独ソ戦が始まった1941年から44年にかけてフィンランドとソ連の間で戦われた戦争である。継続戦争に先立ち1939年にから1940年にかけて、ソ連によるフィンランドへの侵略、いわゆる”冬戦争”が戦われた。この戦争でフィンランドは敗れ、その代償としてカレアリ地方を含む広大な国土をソ連に占領される。1941年にドイツがソ連への侵攻を開始。それに呼応して、国土回復を掲げたフィンランドはソ連との戦争を再開した。ドイツとともにソ連に侵攻したように見えるがフィンランドの立場からすれば、ドイツとは別の戦争、すなわち冬戦争からの継続であるとして、継続戦争と呼ぶ。
ストーリー
この戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカを主人公としている。ロッカは家族と農業を営んでいたが、冬戦争で土地(カレアリ)が奪われたため領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っていた。婚約者とヘルシンキで式を挙げてすぐに前線にもどる小隊長のカリオルト。上官の命令に疑問を抱きながらも最後まで中隊を指揮する小隊長のコスケラ。戦場でも純粋な心を失わないカリルオトの4名の兵士を軸に進んでいく。
内容は作者自身の経験から第8歩兵連隊をモデルにしており、映画も連隊の行動に沿って物語は進んでいく。序盤の快進撃により、領土を回復するも侵略者とされる理不尽。最後にはソ連軍の圧倒的な戦力によって再び敗れる痛み、これらが戦争の進展に従い赤裸々に描き出されている。本作はこうしたフィンランド民族が背負った歴史の重い十字架そのものを描写しているのである。
公式サイト:http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/