戦争映画で兵士が負傷すると「メディック!!」と叫んで、負傷兵に衛生兵が駆けつけ、治療・応急処置を行うというシーンを見たことがあると思います。その時に傷口にかけている白い粉の存在を覚えていますか? 衛生兵は銃創には必ずといっていいほど白い粉をかけています。これはいったい何になり、どういった効果があるのかご存じですか? そして、第二次世界大戦と現代とではこの白い粉の役割、効果も全く異なる物になっているのです。
第二次大戦で使用されたサルファ剤
第一次世界大戦頃まで、戦争において負傷兵の細菌感染は致命的な問題になっていました。傷口からコレラやマラリアなど菌が入り込み感染症を発症し、多くの兵が亡くなりました。第一次世界大戦では使用された毒ガスでは軽症の者もその後の感染症の併発で命を亡くします。しかし、それも1935年にドイツのゲルハルト・ドーマク博士が抗菌作用のあるプロントジルを発見しことで状況が変わります。 プロントジルはマラリアや敗血症といった感染症に対抗作用があることが分かり、 そこから合成抗生剤となるサルファ薬(スルファニルアミド)を開発します。このサルファ剤はドイツ軍及び、第二次世界大戦中の連合国側で感染予防として粉末状にしたサルファ剤が救急キットに常備されます。負傷兵の傷口にこの抗菌作用があるサルファ剤をかけることで細菌の感染を防ぎ、感染症による死亡を劇的に減らしました。太平洋戦争の激戦地、東南アジア、ニューギニアではマラリアや赤痢などの感染症が日米両軍を大いに苦しめましたが、アメリカはサルファ剤の効果により感染症による死亡者はほとんどいませんでした。かえって日本軍はマラリアなどの感染症による死亡者の方が戦闘の死者数より多いともいわれており、サルファ剤(抗生剤)の有無が戦争の命運を分けたいったもよいかもしれません。では、日本軍にはサルファ剤が無かったのかというと、実はありました。しかし、日本軍はサルファ剤を裂傷には使用せず外科治療で対応できない肺炎などの内科治療に使用します。また、戦地、国内とも物資不足に陥り、治療に用いるサルファ剤は少なくなり、日本軍の負傷兵にサルファ剤が使用されることはほとんどありませんでした。
しかし、そのサルファ剤も1928年にイギリスのアレクサンダー・フレミング博士によって発見された世界初の抗生物質ペニシリンの発見により、役目を終えます。1942年にはペニシリンは医療用として実現され、戦地に送られます。ペニシリンは当初、注射剤として用いられ、現在は経口投与の錠剤が一般的になっており、現在ではペニシリンが負傷兵を感染症から守ってくれています。
現在使わられる白い粉
サルファ剤の役目は第二次世界大戦で終わりましたが、同様の白い粉は現在の戦場でも兵士の命を救う大きな役割をしています。それは止血剤としてです。血液を凝固させ、軽い切り傷なら数秒で深い傷でも3分ほどで出血を止めることが出きます。軍用の強力なものは動脈からの出血も防ぐことが可能です。有名なのが米軍や特殊部隊にも採用されているCelox(セロックス)社製の止血剤になります。
上記の粉末以外にもガーゼタイプやシールタイプ、傷口に直接流し込むキットなども提供されています。こちらはなんと蟹や海老といった甲殻類の成分から作られています。
日本ではまだセロックスは一般流通はされていませんが、止血剤は他のメーカーからも出ており、緊急時の救急キットとして一家に一つあると安心かもしれませんね。