アメリカ軍は2001年のアフガニスタン紛争開戦以降、20年にわたって延べ830億ドルに上る援助を行い、アフガニスタン政府軍および、警察を組織を作り上げた。しかし、その20年はもろくも崩れ去り、政府軍、警察はともに解体され、彼らに提供してきた多くの武器がタリバンの手に渡ってしまった。いったいどれほどの武器を米軍はアフガニスタン軍に提供していたのか。これをアメリカ政府監査院(GAO)がレポートをまとめていた。レポートは一度削除されるもOpenTheBooks.comが再投稿している。それをインフォグラフにまとめたのが以下だ。これらのデータをもとにタリバンの手に渡ったかもしれない、米軍、アフガニスタンの装備を紹介する。
個人装備
アサルトライフル 358,530挺
アフガニスタン軍から取り上げた米国製装備で固めるタリバン特殊部隊「バドリ313(Badri313)」pic.twitter.com/ypZXs2RgN9
— ミリレポ (@sabatech_pr) August 23, 2021
アフガニスタン軍兵士の主力小銃は米軍から提供されたM4/M16になり、そのほとんどはタリバンによって鹵獲された。これまでタリバンの主力小銃はAK47だったが、最近のタリバン兵の画像をみるとM4を持っている様子が多く見受けられる。彼らが持つM4にはスコープのACOGやレーザーサイトのAN/PEQも見受けられ、付属アクセサリーも合わせて鹵獲されている。しかし、雑多な扱いで問題ないAK47と比べ、定期的なメンテナンスが必要な M4/M16をタリバンが長らく運用できるかは不透明だ。今は物珍しさで使っているが、いずれAK47系に戻るだろう。M4/M16は5.56mmで7.62mmのAK47と弾薬は異なるが、米軍は過去2年だけで1800万発以上の弾薬をアフガニスタン軍に提供。戦闘が早く終わったこともあり、在庫は潤沢と思われる。 アメリカから提供された銃にはAK47やドラグノフ狙撃銃も含まれる。
拳銃 126,295丁
米軍が2019年に新拳銃のM17を採用したこともあり、それまでの主力拳銃であったベレッタM9がアフガニスタン軍に提供されていた。グロック19も提供されている。
マシンガン 64,363挺
米軍の主力機関銃でもある5.56mm口径のM249、7.62mmのM240が提供され、これらは車両搭載火器としても使われている。その他、ロシア製の7.62mmRPK機関銃、12.7mmのNSV重機関銃がアメリカ資金で購入されている。
グレネードランチャー 25,327挺
ライフルアンダーバレルに装着するアタッチメント式のM203やロシアのGP-25/30が提供されていた。
ロケットランチャー 9,877基
ロケットランチャーはタリバンも使い慣れた安価なロシア製のRPG-7、無反動砲のSPG-9が提供されていた。
ショットガン 12,692挺
タリバンによって押収されたM4といった大量の米国製銃器pic.twitter.com/3Ppb8Bkak8
— ミリレポ (@sabatech_pr) August 14, 2021
アメリカ国内で広く使われているモスバーグM500、そのバリアントで軍用モデルのM590A1、同じく人気のレミントンM870が提供されていた。
無線機(ラジオ) 162,043機
現代戦において部隊兵士間の情報共有は必須であり、タリバンは各兵士に無線機を配備できるだけの数を手に入れたことになる。しかし、彼らがこれを使いこなせるかどうかは不明だ。
暗視装置 16,035機
タリバンにおいても暗視装置やサーマルイメージャーは一部の部隊で前から使用していたので特別な装備ではないが、なにしろ、数が多いので部隊全体に配備でき夜間戦闘も苦にならなくなる。しかし、ちゃんと管理しないと兵士の遊び道具になりそうだ。
地上車両
ハンヴィー 22,714台
米軍をはじめ各国で採用される高機動車両。アフガニスタン紛争・イラク戦争でIED(即席爆発装置)に対して脆弱性が露呈すると米軍の前線からは退いたこともあり、不要になった多数の車両がアフタニスタンに提供された。タリバンとの戦闘が激化して以降、早々に多数の車両が鹵獲されたこともあり、すでにタリバン兵の主力車両として使用されている。
M1117 634台
M1117は装輪装甲車でハンヴィーよりも防弾、防爆性に優れており、12.7mm弾、対戦車地雷、RPGロケット弾から乗員を保護するなど警護車両としてアフガニスタン軍で使用されてきた。
MRAP 155台
米海兵隊も使用する耐地雷・伏撃防護車両で、その名の通り、IED、地雷に対して強固な防護性をもった機動車両で使い勝手よい車両だ。カブール国際空港の警備にも使われるなど最後まで米軍に使用されていた。
M113 169輌
M113はベトナム戦争時から使われている兵員輸送装甲車で最大11名の兵士を運ぶことができる。しかし、古いモデルで、装甲車といえどIED、地雷、RPGに対して脆弱。だが、安価で空輸可能ということで装甲を追加するなどして長らく使用されている。
SUV 42,000台
商用車であるフォード・レンジャーを軍用に装甲化したSUVをアフガニスタン軍では使用していた。トヨタのハイラックスやランドローバーを愛用してきたタリバンにとっては一番扱いやモデルで、既にこれもタリバン兵の間で広く使われており、その台数からも彼らの主力車両になると思われる。
トラック 8000台
多くがナビスター・インターナショナルの軍用トラック7000シリーズ、フォード・カードになる。
航空機・ヘリコプター
C-130 4機
米軍、自衛隊など60カ国以上で使用されている戦術輸送機。3機が飛行可能な状況だが、タリバンに運用できる能力はない。しかし、中東諸国でも広く利用されているため、どこかから支援があれば運用は可能かもしれない。
A-29 スーパーツカノ 23機
ブラジルの航空機メーカー”エンブラエル社”が製造する「スーパーツカノ」はアフガニスタン軍が誇る最強の戦闘攻撃機で、制圧される直前までタリバンに空爆を行っていた。タリバン制圧時にアフガン空軍の固定翼機22機が国外脱出、その多くはA-29とされ、うち一機がウズベキスタン領空でウズベキ軍に撃ち落されている。つまり、アフガン国内に残る機体は多くなく、その上アフガン軍でさえ、米軍の支援なしで整備ができなかったので、タリバンによる運用は不可能と思われる。
セスナ208 38機
セスナ機をベースにした軍用戦術機で偵察が主なC-208を28機、攻撃能力を備えたAC-208を10機保有していた。しかし、機体の半数以上が整備不良で飛べなかったとされ、飛べる機体の多くはパイロットと共にアフガニスタン国外に脱出している。
UH-60 ブラックホーク 33機
タリバン兵がUH-60ブラックホークを操縦するも、離陸させることができなかったそうですpic.twitter.com/e74OSLLQyr
— ミリレポ (@sabatech_pr) August 29, 2021
米軍をはじめ世界各国で使用される多用途ヘリコプター。こちらも同様に半数以上が整備不良で飛行できない状態だった。タリバン制圧時24機のヘリが国外脱出しており、その中にはブラックホークも含まれる。飛べる機体が何機か国内に残っているようで、タリバンが操縦する様子を何度か投稿している。またアフガン空軍のパイロットを捕獲しているという情報もある。
MD-530 43機
アメリカのMDヘリコプターズが製造する軽量多目的ヘリコプター。米軍のリトルバードに近い機体で偵察攻撃、武装護衛、および近接空中攻撃能力をこなすなど、今後機体を大幅に増やす予定だった。小回りが利く分も事故も多かった。
Mi-17 33機
ロシア製の多用途ヘリで前回のタリバン政権時でも保有していたヘリ。それもあってか制圧後に飛行する様子が何度かSNSに投稿されている。ロシアはタリバンに接近しており、おそらく政権も認めるとされ、米国製のヘリと違い整備やパーツの支援を受けられると推測される。
Source
https://www.openthebooks.com/assets/1/6/GAO_Report_-_Afghanistan_Equipment1.pdf