チェコ政府はスウェーデンからリース契約で運用しているグリペンC/D 戦闘機のリース期限が2027年で終了するにあたり、代替えとなる次世代戦闘機の調達を検討しています。候補となるのはアメリカのF-35とスウェーデンのグリペンE/Fです。スウェーデンは契約をなんとしても取るため、グリペンを無料で提供する魅力的な提案をしてきました。高額な戦闘機が無料とはいったいどういうことでしょう。
次世代戦闘機はF-35とグリペンの一騎打ち
チェコ空軍はMig-21に代わる戦闘機として2005年からスウェーデンのSaab(サーブ)社製のJAS39 グリペンC/D戦闘機をリース契約で14機(単座C型12機、複座D型2機)調達します。最初の契約期限は2015年に迎えますが、前年の2014年に契約延長を行い、2027年に次の期限を迎えます。次の期限を迎えるにあたり、チェコ政府と空軍はリースの延長ではなく、2個飛行隊に相当する新しい24機の航空機の調達を検討。その候補に挙がるのがアメリカのロッキード・マーティン社製の第5世代ステルス戦闘機F-35Aと、グリペンの最新鋭モデル”グリペンE/F”です。
F-35A
F-35は現在、世界でも最も成功している第5世代ステルス戦闘機です。高度なステルス性能に最新のアビオニクスと多様な兵装。そして、何よりアメリカ、イギリス、イタリア、ノルウェー、オランダ、デンマークといった多くのNATO加盟国が既に運用中であり、NATO加盟がほぼ決定しているフィンランドもF-35の調達を決定しています。NATO加盟国であるチェコにとってもF-35の導入は装備の共通性や共同演習、ノウハウの提供など大きなメリットがあります。ただ、難点は価格や運用コストです。グリペンをリースで導入した経緯も予算的な面が大きく関係していました。
グリペンE/F
グリペンE/F陣営のスウェーデンとサーブ社は何が何でもチェコの契約を取りたいという思いがあります。両社は2021年12月にフィンランドの次世代戦闘機64機の入札でF-35と争い、敗北したという苦い思いでがあり、同じ轍は踏めません。そこでサーブ社はこの契約をとるため、ある提案をしました。それはリース契約で提供している14機のグリペンC/Dをそのまま、無償で提供するといったものです。28年間という長期に渡るリース契約は、既に機体代金を支払ったに等しいというのがその理由です。グリペンの1機あたりのコストは4000万~6000万ドルとされ、それに対し、チェコは1年あたり7500万ドルのリース代金を払っています。つまり、最大8.4億ドルの機体代金に対し、チェコは契約12年目で既に機体費用に相当するリース代金を払っています。これまで長期に渡りグリペンを運用してきた経緯から、新型のグリペンE/Fを導入しても既存の運用システムに与える影響は微々たるもので、パイロット、整備要員への訓練も最小限に抑えることができます。すでに各国から多くの注文が入っているF-35に対し、グリペンは提供までのリードタイムが短く、グリペンC/Dをアップデートする形で更に費用を抑えることも可能です。
このような背景から、グリペンE/Fがチェコの次期戦闘機として有力と目されています。
グリペンとは
グリペンはスウェーデンの軍需企業Saab(サーブ)社が開発製造するカナードとデルタ翼の組み合わせであるクロースカップルドデルタ形式を特徴とした第4世代戦闘機です。1988年に初飛行、1996年にスウェーデン空軍で最初のモデル”グリペンA/B”の運用が始まります。その後、電子機器をアップデートしたC/D、そして、最新のアビオニクス、エンジンを改修して、スーパークルーズを可能にした最新モデルE/Fが2018年に登場しています。グリペンの最大の魅力は他の第4世代以上の戦闘機に比べてサイズが小さく低コスト、その上、性能が高いことです。射程100km以上のミーティア対空ミサイルをCは4基、Eは7基搭載、最大離陸重量はEで16,500 kg、マッハ2の最高速度とスーパークルーズ能力、航続距離は2,500kmと能力は申し分ありません。しかも1機あたりのコスト4000~6000万ドルはF-35の約半分であり、1時間当たりの飛行コスト5,800ドルはF-35の7分の1しかありません。そのため中堅国に人気でブラジル、タイ、南アフリカなどが主要な採用国になります。
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