ウクライナメディアの報道によれば、ロシア軍は修理中のロシア唯一の空母アドミラル・クズネツォフの乗組員からなる機械化大隊を編成して、ウクライナに動員しているとされている。同艦はこれまで何度も事故に見舞われ、その度に修理が遅延、2017年以降、一度も出航していない。
[adocode]ウクライナの軍事メディアMilitarnyiは20日、オープンソースの情報研究者Moklasenの情報として、ロシア国防省は海軍が保有する唯一の航空母艦であるアドミラル・クズネツォフの乗組員からなる機械化大隊第78987部隊を編成し、ウクライナに動員されていると報じた。ウクライナ軍によれば、同大隊は当初、ウクライナ北部のハリキウ地域に駐留していたが、その後、東部のポクロフスク地域に再配置されたという。ポクロフスクは東部におけるウクライナ軍の重要な兵站拠点で現在、ロシア軍が最も攻勢を強めている場所で激戦地だ。
в/ч 20506 – The aircraft carrier "Admiral Kuznetsov"
— imi (m) (@moklasen) August 3, 2024
Crew member Sosedov Oleg Igorevich went missing on 23.July 2024 assaulting the border village Sotnyts'kyi Kozachok, Kharkivhttps://t.co/8W0z5Wxheg
(h/t @esse_uma) pic.twitter.com/fazU1UPX5J
大隊の存在は、ロシアのソーシャルメディアプラットフォーム「Vkontakte」上で、第78987部隊の隊員の所在を突き止めるための協力を求めるメッセージが共有された後に明らかになった。行方不明となった隊員は、7月23日にハリキウ地域の国境の村ソトニツキー・コザチョクを襲撃中に失踪したオレグ・ソセドフになり、行方不明となるロシア兵はたくさんいるが、彼が海軍の水兵であった事から注目を集めた。ロシア海軍には水陸両用作戦部隊の「ロシア海軍歩兵」という、いわゆる海兵隊がおり、歩兵のように地上で戦闘を行うが、艦船の運行を行う水兵は通常、陸上戦闘に駆り出されることはない。水兵が陸上戦に駆り出されている事実が発覚した事で注目を集めたわけだが、注目されたのは、それだけではない。彼がロシア海軍唯一の空母アドミラル・クズネツォフの乗組員だったからだ。
復活へ向けて修理中だったアドミラル・クズネツォフ
アドミラル・クズネツォフは現在、ロシア海軍が保有する唯一の空母だが、2017年を最後に一度も出向していない。
アドミラル・クズネツォフはソ連時代の1982年に起工、およそ8年をかけて建造され、就役したのはソビエト連邦が崩壊する前年の1990年12月になる。姉妹艦に同時期に建造された「ヴァリャーグ」があるが、ウクライナでの建造途中にソ連が崩壊したため、ウクライナに編入。その後、建造中止となっている。ヴァリャーグは、1998年にスクラップとして中国マカオの民間企業へ売却。その後、中国軍に買い取られ、大規模改修を経て2012年に中国初の空母「遼寧」として就役している。つまり、クズネツォフと遼寧は姉妹艦になる。遼寧は先日、日本の接続海域に出現するなど、就役以降、運航する様子は度々確認されている。それに対し、クズネツォフは2017年以降、ずっとドックに入ったままだ。
2017年1月にシリアでの任務を終え、ロシアに帰還したクズネツォフは艦齢30年を迎えるにあたり、耐用年数を25年延長するためにボイラーや発電施設の交換、電子システムの近代化改修のため、ドッグ入りした。当初の計画では2020年に改修を終える予定だったが、2018年10月30日 、ロシア最大の浮き乾ドックPD-50で作業を終えドックから出る途中に、PD-50の70トンの大型クレーンの1つが艦の飛行甲板に落下し、19平方メートルの穴を空け、艦は損傷。これにより、改修は1.5年遅れ、完了予定は2021年へ延期された。しかし、再び、災難が同艦を襲う。2019年12月、船の溶接作業中に、火花が甲板上にあった石油製品に引火し、大規模な火災が発生。火災は2日間に渡り、約600平方メートルに延焼、火災の影響による修復とそれに伴い改修も大幅に遅延。近代化改修が完了するのは早くとも2022年以降となった。ロシア海軍は早ければ、2024年中の再就役を目指している。そんな中で乗組員のウクライナへの動員だ。
年内に再就役させるなら、乗組員への訓練を始めなければならない。同艦は7年以上、運航していなく、乗組員のブランクも長い。今回、行方不明となった隊員は21歳になり、入隊年齢が18歳以上と考えると、一度もクズネツォフで航行した経験が無い事になる。そのような若い隊員は多いだろう。しかし、ロシア軍はそんな若い乗組員を戦地へと送った。また、艦載機であるMiG-29KR戦闘機が2023年秋ごろからクリミア半島に配備されているのが確認されている。ロシア海軍は2013年からMiG-29KRを計24機取得、うち1機がシリアでのクズネツォフへの着艦時に墜落している。艦載機は数が少なく貴重で、再就役させるなら、温存しておくはずだが、ウクライナに派遣した。
このことから、ロシアはクズネツォフの再就役を後回しにした、もしくは諦めたのではという声もある。実際、再就役したところで黒海に入ることは出きないのでウクライナ戦線には参加できない。現状、ロシア軍にとって空母の優先度は高くなく、空母戦力として人員や兵器を持て余すならウクライナに投入しようという選択なのだろう。