パレスチナ・ガザ地区から連日撃ち込まれる数千発のロケット弾を日々、迎撃し続けるイスラエルの防空ミサイルシステム「Iron Dome(アイアン・ドーム)」。ロケット弾やミサイルといった飛翔体の迎撃は現状、全てアイアン・ドームに依存していると言ってもよい。
アイアンドームとは
イスラエルの軍需企業ラファエル社によって開発製造されている防空システム。北のヒズボラ、南のハマスと南北から撃ち込まれるロケット弾に頭を悩ましてイスラエルは対ロケット弾用の防空システムの開発に着手。2007年に開発が始まり、2011年にイスラエル国防軍(IDF)に配備された。当初の迎撃率は70%代だったが、実戦経験を経る事に改良、その精度は向上し、現在配備中のシステムは90%前後の迎撃率を誇る。最新モデルについてはメーカーは100%と述べているが、まだ、実戦経験が少ないので、今後、明らかになってくるだろう。
How Iseral's Iron Dome Missile works
— Skills (@finetraitt) October 12, 2023
natonato2021 pic.twitter.com/0yzBJSKYdQ
アイアンドームはレーダーとミサイルランチャー、指揮・制御車両で構成されている。レーダー1基につき、ミサイルランチャーは最大4基まで配置可能で、ランチャーは20連装になる。つまりアイアンドーム1セットに付き最大80発のミサイルが配備されている。アイアンドームに使われるTamir(タミル)ミサイルの射程は4kmから最大70kmになり、防御範囲は約155平方km。その範囲でしか迎撃はできない。アイアンドームは確実に迎撃するために飛翔体1発に対し2発のタミルを発射する。つまり、80発のミサイルがあっても迎撃できるのは、その半分の40発という計算になる。
レイセオンと戦略国際問題研究所 によると、イスラエル全土に10基のアイアンドームが設置されているとされる。つまり、常時最大800発の防空ミサイルがイスラエルの地をロケット弾から護っている計算になる。再装填には1時間かかるとされる。
全て迎撃するわけではなない
The Iron Dome had a busy day today! 💪🇮🇱 Keep praying for Israel. pic.twitter.com/9RcfYYBJp1
— Hananya Naftali (@HananyaNaftali) October 11, 2023
しかし、迎撃率9割だからといって、100発中90発を打ち落とすわけではない。例えば、2023年5月、ガザから1,469発のロケット弾が放たれた。このうち、イスラエル領土に到達できたのは1,139発だったが、アイアンドームが迎撃したのは437発。「なんだ、半分も撃墜できてないじゃないか!」と思うかもしれないが、IDFは迎撃成功率95.6%と発表している。アイアンドームは向かってくる全ての飛翔体を迎撃するわけではない。そもそも1,139発というロケット弾の数はアイアンドームの全装弾数800発をゆうに超えており、短時間で放たれたら全弾迎撃するのは物理的に不可能だ。アイアンドームは飛来する飛翔体の軌道を瞬時に計算して、迎撃する優先順位をつけている。優先的に迎撃するのは人口密集地と重要インフラに到達する恐れがある標的だ。それ以外は領土内に着弾しようと無視する。つまり、迎撃率は迎撃すると判断した飛翔体に対してのみになる。
コスト
アイアンドームのユニットコストは5000万ドルとされ、非常に高額だ。防空ミサイルのタミルは1発あたり、4~5万ドルとされている。1発の飛翔体に2発のミサイルを使用するので、迎撃には少なくとも10万ドルのコストがかかる計算になる。それに対し、ハマスが撃ち込むロケット弾は300~800ドルとされている。しかも、ハマスはロケット弾の一部をDIYで作成している。ハマスはイスラエル側に何かしら被害を与えられればいいので、ロケット弾に精密性は求めていない。質よりも量で圧倒して、アイアンドームを麻痺させることが狙いだ。誘導機能を持つタミルはどうしてもコストは高くなり、短期間で数千発という量産はできない。
ウクライナがロシアから撃ち込まれるミサイルや自爆ドローン迎撃のために再三、アイアンドームの提供を求めているが、このような事情もあり、イスラエルにアイアンドームを供与する余裕はない。また、アイアンドームはロケット弾の迎撃を念頭に開発されており、弾道ミサイルや巡航ミサイルといった高性能ミサイルの迎撃には適していないとされる。低速の自爆ドローンであれば迎撃は可能です。
アイアンビームを開発中
このように数百ドルのロケット弾に数万ドルのミサイルは割りに合わないのと、物理的に対応が難しくなってきている。そこで、イスラエルは現在新しい迎撃システム「Iron Beam(アイアン・ビーム)」を開発している。文字通り、ビーム、レーザーを使った迎撃システムだ。ミサイルといった物理的なものを使用せず、ビームを使うのでエネルギー(電力)が続く限り、無限に撃つことができる。そして、特筆すべきはワンショットあたりの単価だ。ビーム1発あたりの単価は僅か”3.5ドル”。ハマスのロケット弾と価格差が逆転する形だ。ビームは雨天や濃霧で拡散するデメリットがあるが、イスラエルの地は乾燥しており、雨が少ないので影響は限定的だ。テストでは迫撃砲、ロケット、対戦車ミサイル、ドローンの撃墜に成功しており、数年以内での配備を目指している。
Rafael Advanced Defense Systemsイスラエルの防空システムというと防空ミサイルの「アイアンドーム(Iron Dome)」が有名ですが、そこに新しい迎撃システム「アイアンビーム(Iron Beam)」が加[…]