インド空軍では現在、総額200億ドルで114機の多用途戦闘機を取得する「Multi-Role Fighter Aircraft (MRFA)」計画が進行中であり、この大型契約を取得するため各国の戦闘機メーカー間の競争が激化している。
インド空軍は「メイク・イン・インディア」政策に基づき、老朽化した旧ソ連製戦闘機MiG-21の更新と兵器庫の補充を目的に114機の新しい多用途戦闘機を購入する総額200億ドル規模の「MRFA」計画の大型契約の入札準備を進めている。公開入札はこれからだが、既に水面下では各国戦闘機メーカーの売り込みが始まっている。
グリペンを売り込むSaab社
JAS39 グリペンを開発生産するスウェーデンのSaab（サーブ）社はグリペンの最新バージョンであるグリペンE/Fを売り込んでいる。サーブ社は先日、インド向けの最初の機体を36か月以内に納入する約束を発表。「メイク・イン・インディア」というようにインド空軍は戦闘機の国内生産を要件に定めているが、もちろんこれも容認、最初の機体はスウェーデンで生産されるが96機はインドで生産される。サーブ社はインドでのグリペン生産の完全なエコシステムの確立を約束しており、高度なシステムやソフトウェアまですべてインド国内で一から製造されることを意味し、技術移転を容認している。これによりインド企業は実績あるグリペン戦闘機の設計、開発、製造に不可欠なスキルを習得できる。また、インド国内にシミュレーターとトレーニング施設も開設し、インドの航空能力の持続的な成長を確保することを目指している。
最有力のラファール
MRFAの最有力とされるのがフランスのダッソー社が開発生産するラファールだ。最有力の理由は既に36機のラファールがインド空軍で運用されているのと、インド海軍の空母艦載機として26機のラファールMの導入が決定しているからだ。また、フランスは100機以上のラファールの発注の場合、現地生産と技術移転を容認している。インド空軍にとっては導入コストが一番安く済み、かつ、インドとフランスの関係は良好であり、マクロン大統領自らトップセールスするのも大きい。
リベンジに燃えるボーイングはF/A-18スーパーホーネットとF-15EX イーグルII を提案
リベンジに燃えるのがF/A-18スーパーホーネットとF-15EX イーグルII開発生産するボーイング社だ。スーパーホーネットはインド海軍の艦載戦闘機の入札でフランスのラファールMと最後まで争ったが敗北した。ただ、ラファールMの調達数は予定数の半分であり、まだ、チャンスがあるとされる。スーパーホーネットの有利な点は、既に艦載機としての評価試験を終えている事、また、多用途戦闘機としては勿論、艦載機としても使用できる点で、それは評価試験でも実証されている。スーパーホーネットは新規受注が無ければ2025年中に生産ラインを閉じる予定だが、受注できれば、それが延命できるのと、インドに新たに生産ラインを構築できる。また、スーパーホーネットと合わせて、F-15シリーズの最新版であるF-15EXイーグルIIも提案しており、ボーイング社を採用すれば、設計思想が異なる2機の現地生産と技術移転が得られるのはインドとしてはメリットが多きい。
ロッキード・マーティン社のF-21
F-16を開発するロッキード・マーティン社はF-16V（Block70/72）をインド空軍向けに改修した新型戦闘機F-21を提案している。既にインドの防衛企業タタ・アドバンスド・システムズとF-21の共同生産契約を締結、2021年には主翼を生産するなどアピールを見せている。詳しいスペックはまだ不明だが、F-16ブロック70戦闘機よりも性能は上で、同社が生産するF-22、F-35のDNAが取り入れられる予定だ。
このほか、英独西伊共同開発のユーロファイター・タイフーンも参加されるとされるが、ラファールがある中で、同機が採用される望みは薄いだろう。ロシアも当初、入札に参加する予定で、最初はMig-35を提案、その後、第5世代ステルス戦闘機のSu-75チェックメイトを売り込んでいたが、ウクライナ侵攻もあり、開発は頓挫、インドのロシア兵器離れもあり、ロシアは事実上撤退した形だ。
