欧米の戦争映画でよく見る、戦地に立つ前の兵士たちに祈りを捧げる牧師。時には戦場までついていき、そこで亡くなった兵士に最後の祈りを捧げる。彼らのような軍に属する牧師のことを従軍牧師という。従軍牧師は宗派に関係なく、戦場にいるすべての人の精神的、道徳的、宗教的幸福を満たし守る義務がある。彼らは特定の教会に属しておらず、所属はあくまで軍。米軍やカナダ軍、英軍ではチャプレンとも呼ばれる兵科の一つでもある。チャプレンはキリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教など全ての宗教の聖職者を表すが、これらの国は国民の大半がキリスト教信者であり、チャプレンの多くは牧師・神父(宗派によって呼び方が異なる)だ。牧師・神父は資格が必要で軍医と一緒で特殊技能兵科とされ、士官扱いされる。旧日本軍にはかつて仏教僧の従軍僧が居たが、今の自衛隊に聖職者の兵科はない。
武器を持ってはいけない
従軍牧師の歴史は古く、4世紀のローマ帝国に存在していた。10世紀前後のヨーロッパを描いたドラマや映画ではしばしば軍に従軍する神父を目にすることもある。この頃は神父も武器を持って兵士と一緒に戦う模様が描かれるなど戦う神父もいた。しかし、ジュネーブ条約などで戦争のルールなど取り決められると、従軍牧師は非戦闘員、中立扱いとされる。兵士の心の治療をする従軍牧師は衛生兵と並び、軍人の中で最も保護される扱いとなった。牧師は兵士と一緒に戦闘地域に入るが、心の援助を提供するためだけで戦闘には一切加担しない。
従軍牧師と衛生兵は武器を持たない非戦闘員で彼らへの攻撃は禁止されていたが、兵士の命を助ける衛生兵は敵の格好の的となった。そのため、現在の衛生兵はそれと分かる赤十字のマークは身に付けず、一兵士と同じ格好をし、武器を持って戦う。しかし、従軍牧師は非戦闘員の地位を決して失わないことが、今でも彼らの義務の一つでもある。もし、武器を手にすれば、その地位はすぐに取り消される。彼らは軍に居ながら決して武器を手にすることはしない。
決して戦闘に関わらない従軍牧師だが、米軍ではこれまでに419人が戦死している。