ロシア国防省は囚人兵の待遇を大幅に変更。これまで6か月、戦闘に従事すれば、恩赦が与えられていたが、現在、それは無くなり、囚人兵が軍務から逃れるには終戦まで戦うか、戦死するしかなくなった。囚人兵の扱いを考えれば、死刑宣告に近いと言ってもいいだろう。
イギリス公共メディアのBBCは5日、ロシアが囚人兵に与えていた「6か月、前線で戦えば恩赦を与える」という待遇を廃止、囚人兵は終戦まで戦うか、戦死するしかなくなったと報じた。これは、現在、戦闘に従事している囚人兵にも適用される。あるロシア囚人兵はBBCのインタビューに対し「以前は6か月間戦闘して生き延びたら帰国できた。しかし今は戦争が終わるまで持ちこたえなければならない。今から参加するなら死ぬ覚悟をしてください」と語った。
PMCワグネルで始まった囚人兵募集
囚人兵の募集はもともと、ロシアの民間軍事会社ワグネルの下で始まった。同組織の創始者であるプリゴジンはロシア軍のウクライナ侵攻に参加。ウクライナ軍の反撃で戦力が低下すると、2022年夏に囚人兵の募集を開始。プリゴジンは自ら刑務所に赴き、囚人に対し「6か月間、戦闘に参加すれば、刑期が残り15年以上あっても、その後、恩赦が与えられ、自由の身となる」と説明。これは殺人や強盗といった凶悪犯罪犯にも適用された。ロシアに死刑制度が無く、凶悪犯は何十年も刑務所に服役することになる。
また、恩赦だけではなく、給与は月額200,000ルーブル、6か月の戦闘後には賞与も与えられ、それは当時のロシア軍正規兵よりも待遇が良かった。
最初の囚人兵1000人は2022年8月に前線に派遣された。そして、2023年1月には最初の50人の囚人兵に恩赦が与えられ自由の身に。その後のプリコジンの囚人に対する説明ではウクライナに行く囚人兵100人のうち10人から15人が戦死、約20人が負傷するが、そのうち15人は回復すると述べ、つまり、8割以上が生き残り恩赦を得られると説明した。これを聞いた多くの囚人はワグネルに応募。2023年6月にプリゴジンがロシア国防省に反旗を振りかざした「プリゴジンの乱」までにワグネルは5万人規模の囚人兵を集めたとされる。
だが、実際にはこんなに生き残ることは無く、生存率は僅かとされている。罪人である囚人兵の命の扱いは軽く、満足な装備も与えられず、弾除け、敵の位置を探るための先兵として扱われた。最初に派遣された囚人兵3000人はほぼ全滅したと言われており、最初に恩赦を与えられた50人がこの生き残りだとすれば、生存率は僅か1.6%だったことになる。ワグネルの主戦場は主に東部激戦地バフムトだった。ここで囚人兵は駒のように扱われ、大勢が戦死。当時、ワグネルが戦う戦域ではロシア側が優勢とされ、バフムトは2023年5月にロシアが制圧。しかし、これはワグネルの囚人兵の人命を顧みない物量戦の結果だ。囚人兵たちは命を守るため撤退したくともワグネルには昔のソ連軍のような督戦隊がおり、戦場から逃げ出す、後退する者は殺された。また、新兵には敵の捕虜になった時に備えて手榴弾が渡されており、敵を巻き込んでの自決が推奨されていた。もし、ウクライナ軍に投降して、捕虜交換で戻ってきた場合、待っているのは処刑で、ある囚人兵はロシアに帰還後、見せしめとしてハンマーで撲殺された。ただ、そんな過酷な状況でも何とか6か月生き延びれば、当時のワグネルは囚人兵に恩赦を与えていた。
ロシア軍傘下に
被害が大きくなるワグネルの状況にプリゴジンは不満を募らせていた。ロシア国防省のワグネルへの扱い、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀長といった軍高官の無能さにとうとう怒りが爆発、2023年6月に反乱を起こし、部隊をモスクワに向けた。結局、モスクワの手前に迫ったところで、プリゴジンは進軍を停止、撤退。その後、失脚。8月には自身が乗る航空機が空中で爆発、墜落するという不可解な形で死亡する。その後、民間軍事会社であるワグネルはロシア国防省傘下に。囚人兵もロシア軍に編入された。そこから、囚人兵の契約が変わることに。BBCの報道によれば6か月だった軍務期間は1年間に延長された。しかし、その後、1年間経っても軍からは解放されず、契約は自動延長。契約は無期限となっている。軍務を終えるためには戦果を挙げて勲章を得るか、回復しても戦闘継続が不可能なほどの重傷を負うか、または戦死するしかなくなった。いずれにも該当しない場合、終戦まで戦う必要があるとされている。先ほども述べたように罪人である囚人兵は正規兵、動員兵より序列が低く、最も命が軽視されている。もともと生存率が低い囚人兵、それが無期限となれば、生き残る確率はほぼ無いと言ってもよく、これは死刑宣告に近い。囚人兵の中には懲役数年の者もいたので、そういった者は完全に貧乏くじを引かされた形だろう。
恩赦を与えられた囚人兵が国内に戻って再度犯罪を犯すことが今、ロシアでは社会問題になっており、ロシア政府はもとより彼らをシャバに戻すことを考えていないかもしれない。