韓国高官はロシア派兵の見返りとして北朝鮮がロシアから防空ミサイルを受け取ったと述べた。また、ロシア当局はプーチン大統領が北朝鮮最大の動物園に、ライオンやヒグマ2頭など計70匹以上の動物を贈ったとも発表している。
韓国のシン・ウォンシク国家安保室長は、ウクライナに侵攻するロシアを支援するために北朝鮮が送った兵士や兵器の見返りとして、ロシアが北朝鮮に防空ミサイルを含む防空装備一式を供与したとSBSテレビの時事番組で述べた。その規模や兵器の内容は明かされていないが、ロシアの最新鋭防空ミサイルシステム「S-400」が供与された可能性が高いと韓国の軍事専門家は述べている。
S-400防空ミサイルシステム
S-400は1970年代にソ連で開発されたS-300の後継として1990年代にロシアで開発、2007年から配備が始まった防空ミサイルシステム。現在、後継のS-500が開発されているが、量産は進んでおらず、実質S-400がロシア軍が配備する最新鋭の長距離防空システムになる。最大400km先、高度30kmの標的を撃墜でき、レーダーは600km先の空中標的を検知する。航空機、巡航および弾道ミサイル、更に迎撃が難しいとされる極超音速兵器も迎撃でき、地上標的にも有効とされ、長距離防空ミサイルシステムとしては最強と謳われているが、ウクライナ戦争では10基以上がミサイルやドローンによって破壊されている。ロシア以外ではインドや中国、アルジェリア、ベラルーシなどが採用。NATOの反対を押し切ってトルコも採用している。
S-400一式が北朝鮮に納入されたのであれば、韓国・米国にとっての最大の懸念はS-400のレーダーが韓国、在韓米空軍が運用するアメリカ製の第5世代ステルス戦闘機F-35を検知できるということだ。S-400のレーダーは理論上、97kmの距離でF-35を探知できるとされている。朝鮮戦争の休戦ラインである北緯38度線からソウルまでの距離が89kmになり、非武装地帯付近(DMZ)にS-400を配置すれば、ソウル周辺まで検知できるので、設置するだけでも抑止力なる。なお、在韓米空軍基地や韓国空軍のF-35の拠点はDMZから150km以上離れている。
しかし、実際に納入されたとしても、今のところは一基だけかもしれない。現状、ロシアは防空ミサイルの数が足りていないのが実情であり、輸出できる余裕はない。実際、ロシアはインド空軍と2018年に2024年までにS-400防空ミサイルシステム5基を納入する契約を締結していたが、ウクライナ侵攻により、残りの2基の納入を2026年に延期している。武器輸出の最大顧客であるインドを差し置いて、もし、北朝鮮にS-400を納入したのであれば、インドは良い顔はしないだろう。
北朝鮮の長距離防空ミサイルシステムは国産の「ポンゲ5号」と「ポンゲ6号」になる。韓国国防部によればポンゲ5号はソ連製のS-300を元に開発されたとされ、その後継として2010年代に開発されたポンゲ6号はS-400と似た性能があるとされるが実態は不明だ。どちらにせよ、双方ともにロシアの防空ミサイルをベースにした兵器だ。もしかしたら、ロシアから正式な技術供与を受けて、北朝鮮でS-400をライセンス生産する可能性も否めない。その方が厄介だ。この他、ロシアから人工衛星関連技術も供与されているとの報道もある。北朝鮮は今年初めに行った衛星打ち上げに失敗している。
ライオン、ヒグマを含む70匹の動物を寄贈
ロシア天然資源環境省は20日、プーチン大統領が友好の証として、北朝鮮にライオン、ヒグマ2頭を計70匹以上の動物を贈ったと発表した。これらはモスクワ動物園で飼育されていたもので、他にもヤク2頭、オウム5羽、キジ数十羽、オシドリも含まれており、ロシアのアレクサンダー・コズロフ天然資源大臣が動物の移送を監督し、モスクワ動物園の獣医らが同行して飛行機で平壌中央動物園へ輸送した。プーチン大統領は今年初めにも北朝鮮から砲弾の提供を受けたことへの感謝の印として純血種の馬24頭を送っている。
北朝鮮は2023年8月以降、1万3000個以上の軍需品コンテナをロシアに移送。これら北朝鮮からの軍事支援の見返りとして、ロシアは燃料や資源、食糧、資金を供与しているとされていた。2024年10月からは1万2000人規模の兵士をロシアのクルスク州に派遣し、支援のレベルを上げた。派兵の数は最大10万人に膨れ上がるとされる。ロシアに対する北朝鮮の支援が大きくなればなるほど、ロシアの北朝鮮への見返りが大きくなるのではと懸念されている。