ロシアに派遣される北朝鮮兵の規模が日増しに増加している。それに呼応するかのように北朝鮮製兵器のロシアへの搬入が確認されており、北朝鮮兵団によるウクライナへの大規模な攻勢が懸念されている。
当初、北朝鮮が1万2000人規模の兵士をロシアに派遣すると報告され、10月には既に一部がウクライナ軍が侵攻するロシア領のクルスク州の戦線に投入、戦闘に参加したと言われている。しかし、その規模が更に増えたと11月11日にニューヨーク・タイムズが報道。ロシア軍がクルスク州に北朝鮮兵5万人を集めたと報告した。だが、兵力の追加はこれで終わりではなかったようで、17日にアメリカのブルームバーグは北朝鮮兵力の規模が10万人に達する可能性があるという分析結果を報告している。これはローテーション戦力も含めた規模になる。北朝鮮軍には徴収兵も含めた130万人の現役兵士と70万人の予備役兵がいるとされ、これは世界4位の規模だ。10万人という兵力は北朝鮮軍にとっては10分の1にも満たない数だ。
北朝鮮は兵士一人あたり、月次報酬として2000ドル(約31万円)をロシアから受け取っているとされる。一見安いように見受けられるが北朝鮮の海外労働者の月次報酬が800ドルと言われているので、報酬額が破格であることが分かる。10万人が派兵されれば毎月2億ドルがロシアから北朝鮮に支払われることになる。戦死した場合の補償は不明だ。この報酬は兵士や家族に支払われることは無く、北朝鮮政府の国庫に入り、ミサイル開発などに使用されることになる。
クルスク州に展開するウクライナ軍の数は1個師団規模、最大15000人とされている。軍事戦略において、攻撃側が守備側を攻略するには3倍以上の戦力が必要といわれるが、北朝鮮兵団はそれを遥かに凌駕する10倍という規模になる。
北朝鮮製兵器がロシアに搬入
M1978/M1989コクサン自走砲
ロシアに北朝鮮製兵器が搬入されているのが複数確認されている。その一つがM1978/M1989コクサン47口径170mmカノン砲だ。1970年代から1980年代にかけて北朝鮮で開発された自走砲でM1978/M1989の数字は共に同車両が確認された年を示すもので西側での呼称だ。M1978はT-54/55、または59式戦車のシャーシにカノン砲を搭載。車体にキャビンや車載弾薬貯蔵システムがない。それに対し、M1989は乗員保護用のキャビン、12発の弾薬を搭載できる車載弾薬貯蔵システムがある。乗員4名で運用、主砲には170mmカノン砲を搭載。通常弾で40km、ロケット推進弾で60kmの最大有効射程があり、敵のアウトレンジから、砲撃可能だ。しかし、発射速度は非常に遅く、5分間で1~2発しか発射できない。ロシア軍には似たようなタイプで2S7ピオン 203mm自走カノン砲があるが、枯渇しており、コクサンはそれを補うためのものとされ、約50両がロシアに送られたとされる。
240mm多連装ロケット自走砲
ウクライナ情報筋の情報としてイギリスのフィナンシャル・タイムズは北朝鮮がロシアに240mm多連装ロケット自走砲を送ったと報じている。北朝鮮は今年に入り、高精度弾薬を使用した改良型240mm多連装ロケット砲の発射実験を少なくとも5回行っている。これは韓国の首都圏攻撃を想定して開発された兵器で新型誘導弾と弾道制御システムの開発に成功したと北朝鮮は謳っており、発表だけみれば、アメリカの高機動ロケット砲システムHIMARSやMRLSに近い兵器とされる。国営の朝鮮中央通信は搭載されるロケットの有効射程は最大67kmと発表している。北朝鮮はこれを実戦でテストしたいと考えており、ロシアに送ったと推察されている。
これら2つの兵器はおそらく、ロシアに派遣された北朝鮮兵によって運用され、クルスクのウクライナ軍陣地を攻撃することになるだろう。このようなロシアと北朝鮮の動きに対し、アメリカのバイデン大統領はようやくウクライナに供与している短距離弾道ミサイルATACMSによるロシア領内への越境攻撃を容認。最大射程300kmの射程と精密攻撃により、ウクライナへの本格的な攻撃を始める前に北朝鮮軍陣地を叩く事を狙っており、北朝鮮の損害を増やす事で更なら派兵、軍事支援を抑止する事が目的とされる。