ワシントンに本拠を置くジェームズタウン財団が2014年から続くウクライナ東部紛争について分析しており、そこにはドンパス地域におけるウクライナ軍と反政府軍・ロシア軍との間のスナイパーの戦いがまとめられている。
現在のウクライナ紛争は塹壕戦
2014年から始まった「クリミア危機・ウクライナ東部紛争」は一時の激しい戦闘は落ち着き、現在は塹壕戦といった持久戦の局面に入っている。反政府側のスナイパー達は同地の複雑な環境を利用して潜み、敵の動きと位置を偵察しながら長距離射撃を行いウクライナ軍の攻撃を防ぎ、士気を砕いている。この状況について財団は深刻だと報告しており、この狙撃のよるウクライナ軍の死傷者はここ数カ月間、日増しに増加しており、死傷者の三分の一が狙撃によるものだ。
反政府軍のスナイパーは味方の迫撃砲、機関銃、ロケット推進手榴弾、対戦車砲といった強力な間接射撃を隠れ蓑にウクライナ兵をおびき寄せ、相手の位置を暴いた後に狙撃する。反政府軍の狙撃手は自分の位置を隠すために時には現地の人間を盾に使ったことさえあったと報告されている。
ウクライナ軍も狙撃に対し、より強固な塹壕と要塞を構築している。そして敵スイパーに対抗するための狙撃部隊を設立するも相手が何枚も上手であった。
反政府派はロシア軍
反政府軍というと民兵のようなイメージが強いと思うが、ウクライナで戦っている反政府軍の実態はPMCとロシア軍だ。PMCはワグナーグループといわれる元スペツナズやロシア軍の兵士が集まった傭兵集団であり、その戦闘スキルはそんじょそこらの正規軍よりも高い。しかも、PMCでありながらロシア軍の施設で訓練を受けている。前線にはPMCのスナイパーが並び、その後方にはロシア軍の一線級の狙撃兵が構えている。ロシア軍は表向きはウクライナ紛争に介入していないことになり、PMCを隠れ蓑の支援を行っている。
weaponews.comPMC(民間軍事会社)は軍事企業といっても民間企業であり、主な仕事は要人警護や重要施設、危険地帯の武装警備になる。だが、企業によっては裏の仕事として正規軍ではできない仕事や国家の関与を隠したい任務など汚れ[…]
それに対しウクライナ軍にはマークスマンとスナイパーの線引きさえできていない状態でNATO軍(北大西洋条約機構)の基準を満たすプロのスナイパーはいない状況だった。そこでウクライナ軍は狙撃訓練プログラムを構築し、海外から講師も呼んで急いでスナイパーを育成した。おかげでウクライナ軍の狙撃兵のスキルも向上し、2500mの狙撃を成功するまで技能を上げた。
装備に大きな差
しかし、スキルだけで反政府軍には対抗できなかった。旧ソ連であるウクライナは現在でも装備の多くはソ連時代のものが多い。使用するスナイパーライフルは使い古されたセミオート式のドラグノフ狙撃銃(SVD※写真上)だ。有効射程は800mしかなく、スコープは古く、ナイトビジョン、ギリースーツ、サプレッサーといったスナイパーに必要なものは資金不足で支給されなかった。方やロシアの支援を受ける反政府軍はライフルこそ同じSVDを使っていたが、新しいバレルに換装され、PSO-3スコープ、高品質の弾丸を使用していた。ロシア軍の狙撃兵に至っては更に高性能のボルトアクション式ライフルORSIS T-5000を使い、SVDよりも3倍の射程を有していた。
銃の性能でも劣勢であったウクライナ軍はソ連時代の旧式の兵器を捨て、徐々に新しい装備に切り換えている。自国企業のZbroyar社が開発したUR-10(写真上)は1200mの射程を誇り、SVDを置き換える銃として期待されている。ウクライナ軍の狙撃兵はVPR-308、Galatz、またはMcMillanと銃も求めている。しかし、資金不足の同軍はSVDから完全に切り替えるには10年かかると言われており、その時には既に紛争は終わっているかもしれない。
https://jamestown.org/program/the-role-of-snipers-in-the-donbas-trench-war/