アメリカのオースティン国防長官は16日、米空軍のB-2戦略爆撃機を含む米軍部隊がイエメンのフーシ派支配地域にある5か所の強化地下兵器貯蔵施設に対して精密攻撃を実施した事を発表した。昨年から行われているフーシ派の攻撃にB-2が使用されるのは今回が初めてであり、B-2が前回出撃したのは2017年になり、実に7年ぶりの実戦投入だった。
攻撃は現地時間の16日夜から17日未明にかけて行われた。B-2スピリットからなる米空軍の攻撃部隊はフーシ派が紅海の民間船及び軍艦を攻撃するために使用している様々な兵器部品を保管する地下施設の破壊を目的にイエメンのフーシ派支配地域にある5か所の強化地下兵器貯蔵施設対して精密攻撃を実施した。フーシ派の兵器を無効化させる事はもちろんだが、兵器を地下深くに埋設し、施設を強化、要塞化しても、米軍はそれらを攻撃、破壊する能力がある事を示す事も目的であったとオースティン国防長官は声明で述べている。そして、その象徴の一つが今回、作戦に投入されたB-2スピリット戦略爆撃機だ。
今回の攻撃に米軍がどれだけの戦力を投入したのかは明らかにされていないが、少なくとも2機のB-2スピリットが投入されたとされる。B-2の投入についてオースティン国防長官は「B-2スピリット長距離ステルス爆撃機の運用は、いつでもどこでも必要なときにこれらの標的に対して行動を起こす米国の世界的攻撃能力を示している。 」と述べた。
史上最も高価な航空機
B-2スピリットは1997年に米空軍で運用が始まったステルス戦略爆撃機になり、冷戦下、ソ連の防空網を突破するために開発された。ステルス性を最大限発揮するために尾翼を失くし、ブーメランのような形状のフライングウィングレイアウトを採用している。航続距離約12,000km、高度50,000フィート(15,000m)を飛行し、17tのペイロードを擁し、核ミサイルも搭載可能であり、この世界最強のステルス戦略爆撃機は抑止力として、これまでヨーロッパ、最近では対中国・北朝鮮を念頭にインド太平洋に展開されてきた。
しかし、B-2は1機あたりの価格が20億ドル(2700億円)と世界で最も高価な航空機になり、132機の生産予定のところ、21機の生産に留まった。1時間あたりの運用コストも7万ドルと米軍内で最も高い。そのため、そうそう多用できる機体ではなく、前回の出撃が2017年だったと言う事がそれを物語っている。そもそも、今回、B-2が行った攻撃は運用コストが安いF-15やF-35といった戦闘機でもできた。しかし、今回、あえて、B-2スピリットを使用した。
なぜ、あえて高価なB-2を使用したのか
今回、地下施設を攻撃しており、「バンカーバスター」、いわゆる地中貫通爆弾が使用されている。使用されたかは不明だがB-2には大型地中貫通爆弾の「GBU-57A/B」が搭載できる。これが搭載できるのはB-2以外ではB-52爆撃機だけだ。しかし、B-52は非ステルス機。フーシ派は武装組織といえ、イランの支援を受け、ある程度の防空システムを備えている。実際、イエメン上空を飛行していた米空軍の無人機MQ-9リーパーがこれまで何機も撃墜されている。有人戦闘機においてもサウジアラビア空軍のF-15戦闘機が数機撃墜されている。撃墜リスクを考え、ステルス機であるB-2を選択した可能性はある。
もう一つが敵対するイランへのメッセージとされ、アメリカの圧倒的な軍事力と攻撃力を見せつける事で牽制する事だ。フーシ派がB-2の飛来を検知したのかどうかは分かっていないが、もし、検知できていなかったのであれば、フーシ派を支援するイランにとっては脅威であり、ステルス機による攻撃を防ぐ術がないという事を思い知らせることは抑止力になる。B-2は1999年のコソボ戦争やその後のイラク、アフガニスタン、リビアなど、いくつかの紛争で使用されているが、これまで被撃墜はもちろん、被弾も一度もない。