ウクライナ・ロシア両軍が博物館兵器S-60 57mm対空機関砲を使う理由

第二次大戦後のソ連で開発されたS-60 57mm対空砲をロシア軍が戦線に戻しつつあると報じられている。「博物館級の旧式兵器」と嘲笑する声もあったが、S-60は既に親ロシア派武装組織やウクライナ軍では使用されている。対空兵器としては時代遅れで、航空機を落とす能力は無いとされるS-60がなぜ、こぞって戦線に投入されているのだろう。

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S-60 57mm対空砲とは

S-60は第二次大戦中の最中である1944年にソ連で開発計画が始まった。1946年に最初のテストが行われ、1950年1月にソ連軍に配備され、量産が始まると1950年に始まった朝鮮戦争に早速投入される。以後、ベトナム戦争やカンボジア内戦、イラン・イラク戦争、湾岸戦争といった東南アジア、中東での紛争に使用された。

重量4,660kgのS-60に自走能力はなく、牽引式。整地では最大65km/h、未舗装道路で最大15km/hで牽引走行できる。射程は光学機器の照準で4,000m、レーダー連動で6,000m。2.8kgの57mm砲弾の初速は約1,000m/sで、スペック上の発射速度は最大毎分105~120発だが、実際の発射速度は毎分 50~60発とされる。時限式着発信管の曳光榴弾と貫通力の高い徹甲弾を発射する。

しかし、牽引式で機動力がなく、移動後も対空に有効なレーダー連携には展開から射撃まで30分もかかり、航空機の高速化と高高度化、対空ミサイルの普及もあって、1980年代からソ連軍からは退役していった。

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火力支援、対ドローン兵器

対空兵器としてはお役御免となったS-60だが、地上兵器としての火力支援火器としてはまだまだ有効だった。S-60が発射するUBR-281徹甲弾は1000m先の96mmRHAを貫通でき、これはロシアの兵員装甲車や歩兵戦闘車の装甲、T-72、T-80といった主力戦車の側面装甲を貫通する威力がある。中東では近年、地上目標に水平射撃を行う陸上兵器として実績を残している。中東の武装組織はS-60を牽引するのではなくトラックの荷台に乗せて自走式にし、課題だった機動力を解決。これに目をつけたウクライナ軍も同様に荷台にS-60を搭載して、使用する姿がSNSに投稿されている。対空兵器として高速化、高高度化した現代の戦闘機を撃墜するのは難しいが、低高度を低速で飛行するドローンに対してはまだ有効であり、対ドローン対空兵器としてもS-60の有効性は見直されている。

そして、兵器が枯渇しつつあるロシア軍もS-60に目を付け、10月には退役後、倉庫に眠っていたS-60を掘り起こし、輸送する様子が捉えられている。とはいえ、長い間倉庫に眠っていたこともあり、これらは錆びており、再稼働のため、修理工場に送られている。ロシアのことだから相当の数が倉庫に眠っていたとも考えられ、今後、トラックに搭載された自走式S-60が大量に投入されるかもしれない。

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