ウクライナに侵攻するロシアを軍事支援する北朝鮮が、その対価としてロシアからMig-29戦闘機とSu-27戦闘機を取得する予定だと、米国の太平洋地域最高司令官が軍事フォーラムの演説で述べた。
NewsWeekなどの報道によれば、米インド太平洋軍司令官サミュエル・パパロ提督は12月7日、レーガン国家防衛フォーラムでの演説で、北朝鮮がウクライナ侵攻するロシアに支援のため12,000人の兵士を派遣した見返りに、ロシアからMig-29戦闘機とSu-27戦闘機を取得する予定だと述べた。機数については言及しなかった。北朝鮮は、見返りとして航空機以上のものを求めている可能性が高く、パパロ提督によれば北朝鮮は戦闘機だけではなく、弾道ミサイル再突入体、最新の潜水艦システム、改良された防空能力など、先進的な軍事技術を狙っている可能性があるとも述べている。韓国の国家安保室は今年11月に北朝鮮がロシア製の最新防空システムS-400を受け取ったと述べている。
北朝鮮は2023年8月以降、ロシアに砲弾やミサイルといった軍事物資を供給。2024年10月からは兵士を派遣。自走砲や多連装ロケット砲の供与も確認されている。その見返りとして北朝鮮はロシアから何を得るのかというのは韓国やアメリカを始め、西側は注視していた。
北朝鮮の空軍力は大幅に強化か
Mig-29とSu-27の両戦闘機を受け取れば、北朝鮮空軍は一気に近代化する。朝鮮人民空軍は500~900機の航空機を保有しているとされ、規模だけ見れば世界有数の空軍力を誇るが、その実態はほとんどが1950~60年代に登場したソ連製、中国製の古い第二世代戦闘機ばかりで稼働率は著しく低いと分析されている。
Mig-29
そんな中、北朝鮮で唯一、現代戦に通用できる機体がMig-29戦闘機だ。Mig‐29は1970年代にソ連で開発、1980年代に運用が始まった第四世代戦闘機。前線での制空権確保を目的に開発された機体でツインエンジンによる高い機動性を有している。現在、ロシアと戦うウクライナ空軍の主力戦闘機でもある。北朝鮮は35機のMig-29を保有しているとされているが、実際に飛行可能なのはその半数の18機程とされている。ただ、Mig-29は海外輸出向けの生産はまだ行われており、既存機体向けのエンジン、スペアパーツの生産も続いており、ロシアの支援を受ければ、残りの半数も再び運用可能になるだろう。更に追加供給となれば、Mig-29戦闘機部隊はかなりの規模になる。
Su-27フランカー
Su-27を受け取れば、北朝鮮としては初の機体になる。Su-27フランカーはソ連時代の1970年代にスホーイ設計局によって開発され、1985年に運用が始まったロシアの第4世代制空戦闘機。単座型の制空戦闘機でF-15に対抗する形で開発され、高速、長距離飛行、高い格闘戦能力を有している。その後、Su-27をベースに複座型改良モデルのSu-30、艦載機型のSu-33、戦闘爆撃機のSu-34、第4.5世代戦闘機のSu-35が開発されており、Su-27の運用はこれら発展型の機体の採用にもつながる可能性がある。
Mig-29とSu-27はロシア空軍ではお払い箱
ロシア航空宇宙軍は現在、80機程のMig-29と100機程のSu-27を運用中とされている。しかし、現在のロシア空軍の主力戦闘機はSu-30、Su-34、Su-35、Su-57になり、Mig-29とSu-27はウクライナ戦争にはほとんど投入されてない。それを表すかのように12機のSu-30、37機のSu-34、7機のSu-35がウクライナの撃墜が確認されているのに対し、これらより能力が劣るSu-27の撃墜は僅か2機だけであり、Mig-29に至っては1機も確認されていない。これはつまり、ロシア空軍がこの2機をウクライナにはほとんど投入していない事を表しており、前線の主力機と見なしていないと言う事になる。つまり、この2機はロシア空軍にとっては余剰であり、一定数の数が北朝鮮に供与可能でもあると言う事を意味する。韓国政府当局者は、北朝鮮が地上部隊の派遣より前の9月にロシア極東の都市ウラジオストクに戦闘機パイロットを派遣していたことを明らかにしていた。当初は、北朝鮮パイロットもウクライナとの戦闘に参戦するのかと思われたが、Mig-29とSu-27の供与が事実ならば、訓練の可能性も高い。
ただ、北朝鮮がMig-29とSu-27を受け取ったところで、朝鮮半島における韓国空軍と米空軍の優位性は揺るがないだろう。両軍ともに最新鋭の第5世代ステルス戦闘機F-35を擁し、同じ第4世代であるF-15とF-16も近代化改修が施され、レーダーといったアビオニクスには大きな差がある。ただ、ロシアの見返りはこれで終わりではないはずで、今後も何かしらの兵器、技術が供与されると思われる。