プリゴジンの乱は一旦、幕引きを迎えたかと思えましたが、やはり一筋縄ではいかなかったようです。
ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介によって、モスクワまで200km手前で軍事クーデターを停止したプリコジン。本来であれば国家反逆罪に問われるような重罪でありながらも、プーチン大統領は軍事クーデターを止める条件としてプリゴジン及び、クーデターに参加した戦闘員の免責及び、ベラルーシへの亡命及び、道中の安全を保障。プリゴジンも兵を引き揚げさせます。これで一件落着かと思えましたが、そこはKGB出身のプーチン大統領、自身に牙を向けた人間をお咎めなく赦す筈がありませんでした。
26日午後に改めて国民向けに演説を行い、モスクワへの進軍を中止、流血を阻止した事に謝意を示しながらも「祖国と国民を裏切った」と名指しこそしなかったもののプリゴジンを非難。そして、自身の指示によって進軍が止まったと、強い大統領を示します。一旦は中止されたと発表したロシア連邦保安庁FSBによるプリゴジンへの武装蜂起容疑に伴う刑事捜査も継続されていました。プーチンは演説後は軍と治安当局トップを集めてプリゴジンの処分及び、今後の対応について協議します。そこにはプリゴジンの仇敵ショイグ国防相も出席していました。ショイグはプリゴジンの乱後、汚職容疑で軟禁など噂が飛び交っていましたが、前線視察する映像が出たり、今回の会議に出席する様子を見る限り、今の所、地位は安泰のようです。
一旦は落としどころがついたと思われたプリゴジンの乱ですが、プーチン大統領が態度を硬化させたのには2つの理由があると考えられます。
一つはプリゴジンが26日遅くに自身のSNSで発信した声明です。24日夜に制圧したロストフを去ってから音信不通、消息不明だった同氏は2日ぶりにSNSを更新。今回の反乱について「ロシア国防省の)陰謀によって、7月1日にワグネルが消滅する運命にあった」とそれを防ぐためである旨を述べ、「抗議のデモであって政権転覆の意図はなかった。(軍と中央の)不正を正すためであった。」と自身の行動を正当化。引き続き中央を批判しました。
Fragments of the Il-22 plane that was shot down yesterday by air defense of Wagner PMC.
— Anton Gerashchenko (@Gerashchenko_en) June 25, 2023
Reportedly, 10 crew members were on board then. pic.twitter.com/D2v4j8XWyE
もう一つが、今回のプリゴジンの反乱により、ロシア兵が亡くなっていることです。流血は回避されたとプーチンは述べましたが、少なくとも6機のヘリコプター、1機の固定翼機が撃墜されており、プーチンも「死亡したパイロットの勇気と犠牲が国家的の悲劇を防いだ」と述べ、今回の反乱によってロシア軍に死者が出たことを認めています。Il-22M11空中指揮機の撃墜は墜落する様子、残骸も確認されており、この被害だけで10名が死亡。これだけの被害がありながら、プリゴジンに咎めがないことに軍内部から批判が上がっていました。
この2つを受け、態度が硬化したことも考えられますが、もともと最初から約束を反故にすることを考えていたことも考えられます。とりあえず、ワグネルの進軍を止めるためにポーズで妥協したような姿勢を示した可能性はあります。
プーチンはワグネルの存続は認めておらず、数日以内にグループ解体されると思われます。ワグネルの戦闘員たちには国防省傘下に入るかベラルーシに渡るかの選択肢を与えています。しかし、ロシア国内のワグネル事業所は26日に事業を再開し、戦闘員の募集を行っているとの報道が出ており、不透明です。ルカシェンコ大統領はプリゴジンに対し、ベラルーシでワグネル存続のための方法を見つけると申し出たと明かしています。少なくとも反乱に参加して精鋭の傭兵たちはベラルーシに渡るとされており、根幹の部隊が残っているのであればワグネルは存続できます。囚人兵を加えて今こそ数万人規模のグループになっていますが、もともとは数千人の傭兵部隊です。ルカシェンコとしても強力な傭兵部隊を迎える事は自身の基盤を強固にすることになり、プーチン同様、軍ではできない汚れ仕事を担わせる可能性もあります。そして、プーチンの秘密を握っているかもしれないプリゴジンを迎え入れることは、プーチンとの交渉材料になります。ただ、ワグネル内部の中には今回のプリゴジンの中途半端な対応に呆れ、離反する者、祖国を追われることになった事に不満を持つ者も多いとされます。
プリゴジンが乗った可能性があるビジネスジェット機が現地時間27日午前7時40分、ベラルーシの首都ミンスク郊外のマチュリシチ空軍基地に到着したとの報道があり、まだ、姿を確認できていないので、真偽は不明ですが、事実であれば、一応、亡命は成功したことになります。ただ、暗殺命令が出ているとの情報もあり、情報は錯綜、まだ予断を許さない状況です。
プリゴジンの乱はまだまだ尾を引きそうです。