ロシア海軍唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」は世界一不幸な空母

世界3位の海軍力を誇るロシア海軍。しかし、近年、1位のアメリカ、2位の中国との戦力差は開くばかりだ。その最たるが航空母艦の有無であろう。アメリカには11隻の大型空母がり、世界断トツ。中国も2隻保有し、2021年には3隻目が進水する。では、ロシア海軍はというと、所有しているのは「アドミラル・クズネツォフ」1隻のみ。しかも、2016年を最後にドックに入ったままで、実質運用能力を失っている。そんな、ロシアの空母は「世界最悪の空母」、「最も不幸な空母」と呼ばれている。いったい、ロシアの空母には何があったのであろう。

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ソ連初の大型空母

アドミラル・クズネツォフの建造が始まったのは1982年になり、およそ8年をかけて建造。就役したのはソビエト連邦が崩壊する前年の1990年であった。全長約305メートル、全幅約72メートル、全高約64メートル、満載排水量は約5万9000トン。乗員約2000名に、Su-33艦上戦闘機を始めとして約50機の艦載機を搭載。発艦システムにスキージャンプ式のSTOBAR方式を世界初で採用するなど、ソ連海軍初の大型空母としてまさにソ連の威信をかけて建造された。

ソ連崩壊、冷戦の終了で整備不良に

アドミラル・クズネツォフは当時まだソ連連邦の一つであったウクライナにある黒海造船工場にて完成、1990年12月に就役すると、時は冷戦の最中、対米、対西側諸国の最前線の北極圏に展開する北方艦隊へ編入される。しかし、北方艦隊への編入後直ぐにソ連が崩壊。独立したウクライナからは空母の所有権を訴えられるなど紆余曲折を経るも、崩壊後も引き続き、ロシア海軍北方艦隊の空母として配属される。だが、崩壊に伴う財政、兵員の不足や士気の低下、指揮系統の乱れにより、満足な修理や整備が行われず、十分な数の艦載機を搭載しないままに運用される。予定されたオーバーホールも全く進まず、艦の環境は劣悪に。しかし、2000年初頭に原油価格が高騰、ロシア経済は上向き、プーチン政権が発足すると、予算が割当たられ、ようやくまともな整備、修理が行われる。
このような経緯もあり結局、1990年12月の就役以降、同艦が参加した演習や任務は1991年から2015年の25年の間で僅か6回のみで、実戦やそれに付随するような作戦は一度も経験していなかった。

ちなみに姉妹艦に同時期に建造された「ヴァリャーグ」があったが、それはウクライナでの建造途中にソ連が崩壊したため、ウクライナに編入。その後、建造中止となり、中国へ売却。その後、中国初の空母「遼寧」として、2012年に就役している。

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初の実戦参加で2機が着陸に失敗し、墜落

オーバーホールが済み、長期の作戦能力を遂行できるまでになった同艦は、2016年10月、アサド政権の支援とイスラム国への攻撃を理由に介入していたシリア内戦に原子力巡洋戦艦ピョートルヴェリキーとウダロイ級駆逐艦2隻を含む他の7隻のロシア海軍艦艇と共に派遣させる。これがアドミラル・クズネツォフにとって初の実戦となった。11月初旬にシリアに到着するとSu-33やMiG-29といった艦載機にKa-29やKa-52Kといった攻撃ヘリが同艦を発艦し、シリア国内に空爆を行った。だが、この間に2機の艦載機が着艦の際に墜落している。11月にはMiG-29KRが着艦の際に事故を起こし飛行甲板の着陸装置を破損。後続機が修理を待つ間に燃料を使い果たし、そのまま墜落。12月にはSu-33が着艦に失敗して海に墜落するなど、訓練不足を露呈した。
作戦は2017年1月初旬に同艦は作戦を中断し、ロシアの帰路へ就く。

クレーンが飛行甲板を直撃

艦齢30年を超えていたアドミラル・クズネツォフはその後、耐用年数を25年延長するためにボイラーや発電施設の交換、電子システムの近代化改修を行うためにムルマンスクの第35船舶修理工場でドッグに入ることに。当初の予定では2020年に完了する予定だった。

2018年10月30日 、ロシア最大の浮き乾ドックPD-50で作業を終えドックから出る途中に、PD-50の70トンの大型クレーンの1つが艦の飛行甲板に落下し、19平方メートルの穴を空け、艦は損傷。PD-50は沈没し、1人が行方不明、4人が負傷した。倒れたクレーンの撤去には2〜3ヶ月擁し、別の乾ドックへ移動、修理が再開されたのは2019年5月なり、改修は1.5年遅れ、完成予定は2021年へ延期された。

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大規模火災発生

2019年12月12日には船の溶接作業中に、火花が甲板上にあった石油製品に引火し、大規模な火災が発生。火災は2日間に渡り、約600平方メートルに延焼、2人が死亡し、14人が火事と煙の吸入により負傷した。火災の影響による修復とそれに伴い改修も大幅に遅延。近代化改修が完了するのは早くとも2022年以降になり、それは更に延びる可能性がある。当初の予定より2年以上遅れることになる。

そもそも、アドミラル・クズネツォフもウクライナで建造されたもので、ロシアの空母建造のノウハウは旧ソ連のウクライナが持っており、ロシアはソ連崩壊とともに空母建造の重要な知識を失っている。

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