日米両政府は16日、無人機・ドローンを無力化する「高出力マイクロ波」兵器の共同開発を行うことに合意した事が分かった。昨今の戦争の主流になりつつあるドローンの対策にようやく日本も動き始めた。共同開発を行うアメリカは既に開発、テスト段階にあり、アメリカと組むことで開発は割と早く進むかもしれない。
インド太平洋地域での中国の脅威が高まる中、世界一のドローン大国である中国の無人機兵器への対抗策は急務だ。最近ではドローンの飛行禁止区域である海上自衛隊横須賀基地上空をドローンが無断飛行し、停泊していた護衛艦「いずも」が撮影され、同じく米海軍横須賀基地に停泊していた原子力空母ロナルド・レーガンとアーレイバーク級ミサイル駆逐艦が撮影された。これらは中国の動画サイトに投稿された事で明るみになり、基地にドローンが浸入していた事さえも把握していなかった。ドローンによる危機が露呈した事で対策が急課題となり、日米は共同で対ドローン兵器として有効とされるマイクロ波兵器の開発に取り組む形だ。契約では、共同研究の期間は2030年度までの6年間を予定。アメリカで屋外照射実験が行われる。
アメリカは既に「Thor」を開発
Photo US APhoto US Air forceアメリカ空軍研究所（AFRL）が開発した 「THOR（トール）」 は、複数のドローンを一瞬のうちに無効化することができるドローンキラー・UASカウンターです。現在、これに続く[…]
マイクロ波兵器とは高出力のマイクロ波を照射するいわゆる指向性エネルギー兵器で、高出力マイクロ波を受けたドローンやミサイルは内部の回線や電子機器が瞬時にショートし、無効化される。マイクロ波の利点は弾丸やミサイルに比べてエンゲージメント面積が広いので撃ち漏らしが少なく、一発当たりのコストが低い上に、エネルギーが続く限りは照射が無制限という点だ。ドローン攻撃で脅威とされてるのが数十、数百機のドローンからなる集団戦法「スウォーム攻撃」だ。これはコストの安いドローンだから可能な攻撃で、防空システムの処理能力を超える攻撃を行う事で打撃を与える。軍事基地や艦船に設置されている対空ミサイルなどは一基あたり多くても6～8発。機銃のCRAMやCIWSは毎分4000発の火力で撃墜するが、多数のドローン相手では直ぐに弾を撃ち尽くす。スウォーム攻撃は、防空システムの空いた穴を攻撃する。ただ、マイクロ波兵器であれば面で迎撃するので一度に数機のドローンを撃墜、電源さえあれば長時間の連続照射が可能で実弾兵器と違い、物理的な制約がなく、弾切れの心配もない。
そして、アメリカは既にマイクロ波兵器の実用化まであと一歩のところまで来ている。米空軍はマイクロ波兵器「Thor」を開発しており、2023年4月に行われたテストではドローンの群れの撃墜に成功しており、実戦配備間近といわれている。高出力マイクロ波兵器は一発ごとの単価こそ、安いものの、開発には莫大な予算もかかる事から、日米共同開発となったのでは推測される。日本としてもアメリカと組むことで開発期間を大分短縮する事ができる。
ドローンの登場で戦争は一変
2020年のアルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ紛争で戦場での無人機・ドローンの有効性が分かると、戦争は一変。ロシア・ウクライナ戦争では両軍が主力兵器の一つとして使用し、数十万円のドローンで数億円する戦車を破壊する様子が何度も確認されている。コストが安いこともあり、武装組織も利用しており、ハマスはドローンを使ってイスラエル軍のメルカバ戦車を破壊している。ロシア軍は対ドローン用に車両にコープゲージを搭載したり、ジャミング装置搭載するも、ドローンを攻撃を完全に防ぐことはできず、被害は一向に減る気配がない。ウクライナもロシアによる自爆ドローンの攻撃に手を焼いており、今のところ、最も効果的な手段は防空ミサイルになるが、ミサイルの単価は数千万から数億円と高額で、自爆ドローン相手ではコストに見合わず、短期間で量産が可能なドローンに対して、ミサイル生産には時間がかかる。そして、この手のドローンの開発生産に最も長けているのが中国になり、民生品ドローンの世界市場の7割を中国企業が握っている。ロシア・ウクライナ両軍が使用するドローンも中国製であったり、部品に中国製が使用されている。もし、台湾有事、中国と戦争となれば、ドローンによる攻撃、「スウォーム攻撃」は必ずあると思われる。今の日本、自衛隊はドローンに対する有効手段を持ち合わせおらず、もし、攻撃を受ければひとたまりもないだろう。
