ウクライナへの最大の軍事支援国であるアメリカ。しかし、このままのペースで支援を続ければ、自国の軍の備蓄が枯渇するというジレンマに陥っています。
ウクライナ軍は今月、北東部のハリキウ州をロシア軍から奪還しました。これらの軍事的成功は西側の軍事支援が無くては成しえませんでした。その最大の支援国はアメリカであり、バイデン政権の発足以降、これまで100億ドル(1兆4000億円)以上の軍事支援を提供、8月末には更に追加で30億ドルを提供することを発表しています。これまで、多くの兵器と弾薬を提供しているアメリカですが、その代償として自軍の兵器の備蓄が急速に低下しています。特に減っているのがM777 155mm榴弾砲に使用する砲弾です。
80万発提供して、月に作れるのは僅か1.4万発
Ukrainian M777 howitzer is getting the job done. Direct shot!
— Defense of Ukraine (@DefenceU) July 12, 2022
Footage by Operational Command South. pic.twitter.com/a1JwJ4Pn6L
ロシア軍がキーウを撤退した4月以降、ウクライナ軍はこれまでの防衛戦から、占領地された地を奪還するための反転攻勢に転じます。そして、戦線は平原が多い東部へと移行。戦況が変わるにあたり、西側の軍事支援はこれまでのジャベリンやスティンガーといった歩兵用携行兵器から榴弾砲や戦車といった重火器の提供へとシフトしていきます。そこで、アメリカが提供したのがM777 155mm榴弾砲です。アメリカはこれまで126門のM777を提供。合わせて、これまで約80万発の155mm榴弾(M795)を提供しています。つまり、米陸軍と米海兵隊が備蓄していた80万発の在庫が無くなったわけですが、更に8月末に発表した30億ドルの追加の軍事支援の中には24.5万発の追加のM795が含まれており、その数は累計100万発に上ります。大幅に減少した米軍の砲弾在庫ですが、この100万発を補充するには、現在の生産ペースだと約6年かかります。というのも、現在、155mm榴弾を生産する工場はペンシルベニア州スクラントンにあるゼネラル ダイナミクスの工場の一つしかなく、その月産生産能力は1.4万発しかないからです。ウクライナ軍の1日の155mm榴弾の使用量は平均3000発。単純計算で月間9万発で、使用量が生産量をはるかに凌駕しています。砲弾を提供しているのはアメリカだけではありませんが、アメリカ以上の生産能力を持つ国は西側にはないでしょう。ウクライナへは今後も継続的な供給が必要であり、備蓄は更に減っていくでしょう。
砲弾の在庫状況について米国当局者はウォールストリートジャーナルの取材に対し「枯渇レベルには達していないが、不快なほど低く、戦闘に参加したいレベルではない」と答えています。この状況に米国防総省の武器調達責任者であるビル・ラプランテ氏は「最終的には約3年間で月産36,000発まで増やしていく予定です」と述べています。
155mm榴弾はNATO規格の口径であり、アメリカだけなく、NATO加盟国及び、日本や韓国といったアメリカ同盟国が使用しており、砲弾を製造しているのはアメリカの会社だけではありません。ウクライナへ提供する砲弾を含めて、同盟国とも協力して、155mm榴弾の在庫問題について取り組む姿勢を見せており、早速、国内外複数企業から3億6400万ドルで25万発を調達する新しい契約を発表しています。
アメリカは以前にもウクライナへの軍事支援に伴い携行式防空ミサイルの「スティンガー」や対戦車ミサイルの在庫問題に直面しました。特にスティンガーについては2005年以降、一切購入していなかったため、製造元のレセイオン社とロッキード・マーティン社の製造ラインは閉じており、量産は1年待ちという事態になります。在庫を前の状態まで補充するには3年かかるとされています。
US armyウクライナへの軍事支援として大量に送られた携行式対空ミサイル(MANPADS)の「スティンガー」。戦闘は長引き、今後もスティンガーは大量に必要になりそうですが、今後、補充することは難しくなりそうです。[adc[…]
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