米国国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)は、これまでの暗視装置より軽く、広い視野を提供する次世代ナイトビジョンの研究、開発を行っていることを1月に発表しました。
米軍の優位性が無くなっている
過去30年間の紛争と戦争における米軍の優位性は、優れた科学技術に基づいており、その中の一つに暗視技術が含まれます。暗視装置は夜間や暗い場所でも視界確保できるように開発された装置になり、米軍はいち早く暗視装置を全軍に配備、これにより、特に夜間戦闘において米兵は敵よりも有利に戦うことができます。この優位性を活かすために、夜間に作戦を遂行することが多く、これは特に特殊部隊に当てはまります。それは、地上兵士だけではなくヘリパイロットにも使用され真っ暗闇でも低高度の飛行を可能にしました。しかし、米軍の優位性は近年減少しています。ロシア軍や中国軍の兵の間でも広く装備され、性能も米軍との差異はほとんどありません。また、ロシア、中国が開発する暗視装置は安価で、これは民間市場にも流れ、今ではテロリストといった非正規軍でさえ暗視装置を使用しています。
現在のナイトビジョンは視野が狭い
何十年にもわたる開発にもかかわらず、現在のナイトビジョンシステムはかさばり、重く、着用者の首に大きな負荷をもたらします。これらは着用者の敏捷性を大幅に制限し、長時間の使用で慢性的な怪我を引き起こすことがよくあります。最軽量の暗視装置でさえ、約500グラムの重さがあり、それに加えヘルメット、聴覚保護具、その他の周辺機器も含まれます。何時間もかかる作戦では、首は多くの負担にさらされます。
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さらに、ナイトビジョンの大きなデメリットは視野が狭くなることです。暗視ゴーグルは双眼鏡のような形になっており着用者の視野は狭く、標準的な装置の視野は約40〜50度です。さらに近赤外線(NIR)によってスペクトルアクセスが制限されているため、状況認識が大幅に制限され、周辺視野の認識がしづらく、絶えず、首を振りながら認識することになり、それもまた首に負担をかける要因でもあります。
次世代ナイトビジョンENVision
DARPAが開発する次世代ナイトビジョンEnhanced Night Vision in eyeglass form (ENVision) プログラムはこれらの課題を解決します。ENVisionは、赤外線 (IR) 帯域毎に個別の光学部品を必要とせずに、複数のIRスペクトル帯域にわたって広い視野を提供する軽量のナイトビジョンの作成を目指しています。目標は霧、埃、その他の視界を遮るものを通して暗視を可能にすることと、熱視覚を提供することであり、これらはすべて単一の平面レンズを介して行われます。これまでのナイトビジョンはIR帯域幅を拡大するためにさまざま光学機器が取り付けられサイズと重量が増加しました。ENVisionは一般的な眼鏡ほどの軽量化を目指しています。
DARPAのプログラム責任者、ロヒス・チャンドラセカール氏は以下のように述べた。
「何時間もナイトビジョンを装着したことがない人は、キャップを一日中かぶって、キャップのツバに1kgの重りが付いていると想像してみてほしい。これを長く着用し続けると、首は頭をまっすぐに保つためのエネルギーが次第になくなり、戦闘員は手を使って頭を持ち上げたり、向けたりする必要がある状態になる。また、周辺視野を得るために頻繁に頭を回転させなければならない。現在の光学系は40度の視野しか得られないのに対し、我々の目は通常120度の視野を得ることができる。ナイトビジョンの使用は苦痛を増すだけである。」
ENVisionは、重量の増加によってのみパフォーマンスの向上を達成できるというパラダイムを打破するように設計されています。過去10年間にわたるDARPAの研究は、平面光学、検出材料、および新規の光物質相互作用の分野におけるブレイクスルーにつながっており、ENVisionはこれらの進歩を活用して、ナイトビジョンを単純化、軽量なメガネ型フォームにします。
サーマルサイトとナイトビジョンが連動する最新の光学機器ENVG III/ FWS-I
Source
https://www.darpa.mil/program/envision
https://www.darpa.mil/news-events/2021-01-07a