ウクライナへ積極的な支援を行っているイギリスですが、新たな支援として「Harpoon(ハープーン)」対艦ミサイルの提供を計画しています。実現すれば、黒海でのゲームチェンジャーになるかもしれません。
先日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問したイギリスのジョンソン首相はゼレンスキー大統領に装甲車120台や対艦ミサイル、経済支援といった新たな追加支援を行うことを約束しました。この追加支援の中で注目されているのが対艦ミサイルと提供が検討されている「ハープーン」です。
ハープーン対艦ミサイルとは
ハープーン は、ボーイング・ディフェンス(旧:マグドネル・ダグラス社)によって開発および製造された全天候型の対艦・巡航ミサイルです。1960年代に開発が始まり、1977年より運用が開始され、以後、これまで何度も改良を重ね、今では日本をはじめ世界30か国以上、600隻以上の軍艦と180隻以上の潜水艦に搭載されるベストセラーのミサイルです。ハープーンは運用するプラットフォームに合わせ主に固定翼機に搭載する空対艦(AGM-84)、水上艦に搭載する艦対艦(RGM-84)、潜水艦に搭載する潜対艦(UGM-84)の3つのモデルが運用されていますが、コマンドアンドコントロール装置と一緒にトラックに搭載して運用する地上発射型もあります。ウクライナに提供されるのは地上発射型になると思われます。
ハープーンは発射されると慣性誘導、若しくはGPSによって誘導され、撃墜とレーダー探知を避けるため、海上すれすれの低空(シースキミング)をマッハ0.85のスピードで飛行します。標的に近づくとアクティブレーダーホーミングを作動して標的を補足します。射程はタイプやブロックによって異なりますが、100km前後から最大315kmになります。価格は1発あたり、150万ドルです。
黒海のゲームチェンジャーになるか
The Russian MoD posted a video yesterday showing the Black Sea Fleet’s Admiral Essen frigate allegedly engaging a TB2 UCAV with its Shtil-1 air defense system. The footage didn’t show an impact.https://t.co/TpBtPtEj9K pic.twitter.com/pSgiju9saa
— Rob Lee (@RALee85) April 13, 2022
ウクライナ、ロシア両国が面する内海の黒海の制海権は完全にロシアが握っています。ウクライナ海軍とロシア海軍の戦力差は圧倒的であり、ウクライナ海軍の旗艦は戦うことなく自沈、他の多くの船も出撃することなく撃沈または拿捕されるなど艦隊運用能力は消失している状況で、これまで海戦は一度も行われていません。そのため、ウクライナの海上輸送は完全に封鎖、ロシア軍は更にウクライナ船籍以外の船の航行も封鎖、商船に対して攻撃を行い死傷者も出ており、海上から物資の調達、避難することは不可能です。制海権を完全に握ったロシア軍艦は洋上から自由に巡航ミサイルの攻撃(動画上)を行っています。
#Ukraine: We obtained video that shows that the Azov claim of a Russian Project 03160 “Raptor” patrol boat being struck near #Mariupol is accurate, with 2x 9M113 ATGM being fired, 1 successful hit.
— 🇺🇦 Ukraine Weapons Tracker (@UAWeapons) March 22, 2022
According to Ru sources, the boat was put out of action and had to be towed away. pic.twitter.com/irgYo97IAJ
もちろんウクライナ軍もただ指を咥えてみているだけではなく、港に停泊していた黒海艦隊の揚陸艦を弾道ミサイルで攻撃、海岸沿いを航行していた巡視艇を対戦車ミサイルで撃沈するなど反撃を行っています。またウクライナ国産の対艦ミサイルRK-360MCネプチューンでロシア軍艦を撃沈したという情報もありますが、これは未確認で2021年3月に就役したばかりのミサイルの有効性は不明です。現状を顧みるに沖合に停泊する軍艦に対しては攻撃手段がないというのは確かなようで、もし大規模な上陸作戦が行われれば太刀打ちできない状況です。
※4月14日にネプチューンが黒海艦隊の旗艦モスクワを撃沈
mod ukraine4月14日の日本時間の早朝にロシア海軍の旗艦でミサイル巡洋艦モスクワがウクライナの対艦・巡航ミサイル「RK-360MC Neptune(ネプチューン)」で撃沈されたとの速報が入ってきた。最初はブラフと思われた[…]
しかし、ハープーンが提供されれば、沖合のロシア軍艦にも攻撃可能になります。黒海に繋がる海峡は現在トルコが封鎖しており、黒海艦隊は支援を受けることはできなく、戦力を消失しても補填することはできず、地上戦力とは違い、ロシア海軍は戦力回復を行うことはできません。黒海艦隊の戦力を確実に削っていけば、黒海の封鎖を解くことができます。(キロ級潜水艦があるので最終的には対潜兵器も必要になるが)
イギリス海軍は近年、寿命を迎えつつあるハープーンの延命改修を行っており、古いミサイルの在庫処分も兼ねているかもしれませんが、それでもウクライナにとってはありがたい話です。一定の訓練期間は必要ですが、ハープーンがウクライナ軍に配備されれば黒海のゲームチェンジャーになるかもしれません。