米国特殊作戦軍USSOCOMは、武装監視活動の一環として中東やアフリカといった厳しい環境下での飛行、監視と打撃を行うための低コストな軽戦術航空機の導入を検討しており、今年5月に航空機メーカー5社と総額1,920万ドルのプロトタイプ購入の契約を締結した。SOCOMは、米空軍が2021年2月に軽戦術攻撃機AT-6Eウルヴァリンを導入したことに影響を受けて、新しい武装監視プログラムを提案。現在運用中のU-28ドラコに代わる新しい機体の導入計画を立てている。SOCOMは近接航空支援、精密攻撃、および過酷な環境下での特殊作戦・ISR(情報・偵察・監視)の飛行任務を行うために約75機の航空機を購入したいと考えている。
Bronco II(ブロンコⅡ)
南アフリカのPARAMOUNTGroup傘下のLeidos社が開発する高性能軽攻撃機。2018年2月に発表された機体で高性能偵察軽航空機(AHRLAC)ベースにしており、現在開発・生産拠点は米国に置かれている。タンデム構成の2人乗りで主に対反乱作戦、近接航空支援、非対称戦争シナリオでの空対地攻撃任務を目的に設計されている。指揮、管制、通信、コンピュータ、情報、偵察、監視 (C4ISR) 、及び低速ミッション、周遊ミッションにも使用できる。ミッション要件に基づいてさまざまな武器を運ぶための6つのアンダーウィングハードポイントが用意されている。また「プラグ&プレイ」と呼ばれる機体下部の交換可能な”コンフォーマルミッションベイ”を採用し、任務に応じてセンサーやカメラを搭載したり、燃料や弾薬といった補給物資を搭載できる。機体も分解が容易で分解すればコンテナに納まり、12時間以内に組立ができる。7月の運用試験中に着陸装置の軽微な損傷に見舞われ、これが今後の評価にどのような影響があるかはまだ不透明だ。
https://www.bronco-usa.com/bronco-ii/p/1
MC-208 Guardian(MC-208ガーディアン)
アメリカの民間軍事会社MAG Aerospace(マグ・エアロスペース)が開発する軽戦術偵察機。同社は主に空からの諜報・偵察・監視任務(ISR)を生業としており、アフガニスタンでも米軍の戦闘を上空から支援した。その同社がセスナ208キャラバン・ユーティリティ航空機をベースに開発したのがMC-208 Guardianになる。2021年3月に発表されたばかりの機体で厳しい環境下での航空移動、ISR、負傷兵搬送、近接航空支援、精密攻撃など、さまざまな任務をサポートするように設計されている。機体には2人の乗組員を含む9人を収容することができ兵員輸送、負傷者の回収も行える。機体は5人がかりで4.5時間で分解でき、8時間で再組み立てができる。分解すればC-17軍用輸送機に搭載でき、航空機は48時間以内に全ての地域でのミッションに対応できる。最新のアビオニクスシステム、高高度任務に対応できる設備、乗員を護る装甲システムで保護されている。武器はヘルファイア、レーザー誘導ミサイル、ロケット弾といった様々な兵器を搭載でき、さらにアフガニスタンで米軍と任務を行った実績から既に弾薬の安全な発射と実弾射撃について、米国空軍のSEEKEAGLE認定を受けている。
AT-6E Wolverine
米国ロード・アイランド州に本社を置くTextron航空の一部門であるビーチクラフト社によって開発された軽戦術航空機。諜報、監視、偵察(ISR)任務用に開発された機体で2021年に2月に米空軍が採用している。米海陸軍が使用しているT-6 Texan IIをベースに開発されており、軍の航空機パイロットの95%が操縦可能とされているこの機体と同型機のAT-6Eは僅かな訓練で操縦が可能とさている。さらに部品共通性も85%とメンテナンスも効率化され、その上、飛行コストは米空軍航空機の中でも最も安い1時間1000$未満になり、コストメリットも高い。さらに驚異的な数の武器と燃料タンクの構成要素を備え、兵器構成はさまざまな精密誘導ミサイルやロケットやガンポッドを搭載。前線航空管制のSOCOM武装監視要件を満たす35の兵器構成を備えている。米軍での採用・運用実績、そして既にSOCOMの要件を満たす武装設計などから一番有力な機体かもしれない。
関連記事:米空軍が最初のAT-6Eウルヴァリン軽攻撃機を取得
MC-145B Wily Coyote(MC-145Bウィリー・コヨーテ)
米国ネバダ州のSierra Nevada Corp(シエラ・ネバダ・コーポレーション)によって開発された小型戦術輸送機。ポーランドのPZL社のM28をベースに開発されているが、M28はロシアのアントノフAn-28をベースにしている。これまでの機体と比べMC-145Bの主な役割は輸送になる。最大19人の乗員、2,800kgの積載最能力を誇り、後部ハッチ式で空中投下、パラシュート降下、負傷者回収で強みを発揮する。ツインエンジンのターボプロップ機になり最短156mあれば離着陸が可能だ。エストニアでの極寒、ケニアの熱帯林、ヨルダンの砂漠と過酷な地で既に実証済みで頑丈な固定三輪車ギアは多少の荒れ地でも離着陸が可能だ。輸送機だが、SOCOMの要件を満たす情報・偵察・監視のためのISR機能を搭載。さらに他にはないペイロード能力を使ったウェポンシステムが特徴で大型のAGM-158空対地ミサイル(JASSM)の搭載も可能とされており、スタンドオフの攻撃能力を得ることも可能だ。
AT-802U Sky Warden(AT-802U スカイ・ウォードゥン)
米国の軍需企業L-3 Communications Integrated System(L-3コミュニケーションズ・インテグラ―テッド・システム)と航空機メーカーAir Tractor(エア・トラクター)が共同で開発する軽攻撃機。農薬散布や消防、警察、軍用目的に世界中に使われているエア・トラクターAT-802をベースに開発されている。電子・情報システムにおける世界最大手のL3ハリス・テクノロジーズのシステムを搭載し、ISR、精密攻撃、指揮統制、対反乱作戦を目的にインフラが限られた、厳しく、細分化された戦闘環境で実行するように特別に設計されてる。消防航空機としても使用されている同機は耐久性が売りで防漏燃料タンクを備えコックピットとエンジン回りは装甲で保護され、高張力鋼管の機体は衝撃を吸収する。2,700kgの戦闘ロードアウトを備え、合計10個のハードポイントにより様々なそ兵器を搭載できる。AT-802Uは過去にも米軍に売り込みをかけていたが、この時は射出座席を装備していなかったため、拒否された。今回は装備されている。
https://www.l3harris.com/all-capabilities/skywarden
これらの機体は主に対空能力が弱く、航空戦力に対する脅威が少ない中東やアフリカなどの紛争地域で非対称戦争での利用を想定している。このような地域では高価な戦闘機や攻撃機を投入する必要はないが、そもそもこれらの航空機を使用する上で空港などのインフラが十分に整っていない。SOCOMが導入を検討しているこれら5機の機体はどれも整備された滑走路が無くとも、平地の砂利や砂地でも離着陸が可能な仕様になっている。
プロトタイプのデモンストレーションはフロリダ州のエグリン空軍基地で行われており、2022年3月までに完了する予定になっている。