7月初めには始まったとされるウクライナへのF-16ファイティングファルコン戦闘機の移送。早ければ7月中には戦場に投入されるとも噂されたが、7月の最終日を迎える今日も、F-16が戦場に現れたという情報はまだない。ウクライナのF-16はどうなっているのだろう。
7月初旬にアメリカで開催されたNATO首脳会談において、アメリカのブリンケン国務長官はF-16戦闘機のウクライナへの移送が始まっている事を明かした。最初の機体はオランダとデンマークから供与される機体になり、6機が納入されるという情報だ。ロシアはウクライナ軍機がNATO諸国の飛行場から離発着して戦闘に参加する事はNATOの参戦を意味すると述べており、NATOは戦争の激化を望んでいないので、ウクライナへの移送はおそらく空路ではなく陸路によって行われていると思われる。おそらく、隣国ポーランドのウクライナ国境近くの飛行場まで飛ばし、そこで主翼を解体し、トラックに載せて運ばれていると推測される。実際、ウクライナのゼレンスキー大統領は7月中旬にロンドンで開催された欧州政治共同体での会合において、ポーランドのドナルド・トゥスク首相と会談。それを受けて19日には「ウクライナがF-16戦闘機をより早く受領できるようにする”特定の問題”に関するポーランド政府の決定に感謝する」とSNS上で述べた。問題が何なのかは不明だが、ポーランド国内での移送の迅速化、国境を越える手続きの簡素化などと思われる。ただ、7月19日のこのような事を述べていることから、この時点ではまだ、F-16がウクライナ国内に納入されていない事を示しており、届いていても7月末と言う事になるが、現時点でF-16がウクライナに届いたという公式情報はない。
※追記:この記事を執筆中に米ブルームバーグが7月31日にウクライナに到着したと報道。ロイターやAP通信も報じた。
目撃情報があるも真偽は不明
Stabilized Slowmotion footage of supposed F-16 over Ukraine.
— C Schmitz (@chrisschmitz) July 30, 2024
A few observations:
– thats an F-16
– impossible to discern location
– "UA typical opsec horizon blur" could be done for information warfare reasons
– no "strong" blue yellow markings
Could be anywhere. pic.twitter.com/YcL1wcJlaT
7月30日にはウクライナ上空を飛行しているとされるF-16の動画がSNSで拡散されたが、場所は明かされておらず、ウクライナ国内である事を示す情報はない。ただ、時期的には飛行していても不思議ではなく、既にウクライナには到着、訓練が始まっているが、ウクライナ当局が情報を機密にしている可能性はある。
アメリカはF-16用の兵器を供与
アメリカのウォールストリートジャーナルは7月30日、アメリカがウクライナに供与されるF-16用に大量の米国製兵器を供与すると報じている。供与されるのはAGM-88 HARM空対地対レーダーミサイル、中距離空対空ミサイルAIM-120C AMRAAM、短距離空対空ミサイルAIM-9SideWinder、誘導爆弾JDAMになる。欧州NATO各国はF-16が退役を迎えていたこともあり供与に積極的だが、それに搭載する兵器については各国とも数が限られており、供与には消極的だ。それに対し、F-16の生産国であるアメリカは機体は供与しないが、代わりに、F-16に搭載する兵器を供与する。F-16の供与数は今のところデンマークが19機、オランダが24機、ノルウェーが2機、ベルギーが30機、ギリシャが32機の合計107機になり、大量の弾薬が必要だ。しかし、最初に供与される機体は6機、年内で20機になり、取り急ぎは20機分の兵器だけで問題はない。ただ、今のところ兵器の供与スケジュールは発表されていない。
ウクライナ軍が使用するソ連製の戦闘機Mig-29はAGM-88 HARM対レーダーミサイルと滑空誘導爆弾JDAMが運用できるよう改修されていることもあり、既にこれらは供与され、在庫はある。また、ウクライナに供与されているノルウェー製の地上型中高度防空ミサイルNASAMSは中距離空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMと短距離空対空ミサイルAIM-9 SideWinderを発射するため、これも既に提供されている。ただ、F-16での使用を見込んで供与されたものではなく、在庫はそう多くはないだろう。
パイロットは僅か6人
また、当初12人のパイロットが訓練を終了したと報じられていたが、ワシントンポストは先週、訓練が終了したのは僅か6人しかいないと報じた。最初に供与されるのは6機なので、6人で足りると思うかもしれないが、6機6人では交代要員がいないという事を意味する。パイロットの疲労を考えれば6機全機をフル稼働させる事は無理であり、同時出撃はせいぜい2~3機、出撃回数は一日10回程度とされている。ゼレンスキー大統領とウクライナ軍司令官らは、これは少なすぎるし、(訓練と供与が)遅すぎると不満を漏らしている。たったこれだけの機体と出撃回数では戦況に影響を与える事はできず、優位に立つことはできない。ウクライナは近いうちにクリミア半島への上陸を計画していると噂れされている。クリミア半島およびアゾフ海からは既に黒海艦隊が撤退、またアメリカから供与されたATACMSなどにより、クリミアの防空網は壊滅的な状況になっており、そこへ満を持してF-16を投入する予定だった。これまでの経緯を考えると今年中に20機というのも怪しく、仮に納入されても乗るパイロット、使える兵器がないという可能性もある。そうなれば、ウクライナの反転攻勢は大きく狂う事になる。