アメリカ軍の完全撤退までに1カ月を切ったアフガニスタン。国内の状況は日に日に悪化し、タリバンは勢力を拡大しつつある。地上部隊は劣勢に立たされており、グリーンベレーの訓練を受けた特殊部隊でさえも弾薬不足、満足な支援受けられずに敗走している。そこで、鍵に握るのがアフガ二スタン空軍だ。タリバンは航空戦力を保持しておらず、制空権はアフガン空軍が握っており、反抗の切り札になる筈だったのだが、人員、資材、弾薬が不足しており、虎の子の空軍は崩壊の危機に直面している。
アフガニスタン空軍
アフガニスタン紛争後の2002年以降にアメリカとNATOによって再建されたアフガニスタン空軍。カブールの第1航空団、カンダハールの第2航空団、シンダンドの第3航空団、アフガニスタン北部のマザリシャリフの第4航空団と4つの航空団に分かれ、約183機の航空機・ヘリコプターと7,000人以上の空軍兵を有している。高価なジェット戦闘機は保有しておらず、地上攻撃機として、軽攻撃機の”スーパーツカノA-29“を23機、セスナ機の軍用機版”AC-208コンバットキャラバン”を10機保有している。どちらも安価なプロペラ機にはなるが、ヘルファイアミサイルやレーザー誘導弾などを対地ミサイルを装備でき、情報・監視・偵察といったISR任務も行え、有効で綿密な航空支援を行う。敵対する航空戦力の脅威が無い同地域において最強の兵器と言ってもよい機体だ。その他にも輸送機のC-130ハーキュリーズ4機、UH-60ブラックホーク37機、また、アフガン紛争前から所有するロシアのMi-17・Mi-24ヘリコプター約100機を保有している。
人員と弾薬の不足
しかし、どんなに優れた兵器を持っていてもそれを操る人間、飛ばすための資材、攻撃するための弾薬が無ければ無意味だ。現在、アフガニスタン空軍にいる機体の約3分の1が部品不足で飛べない状態とされ、更に精密攻撃に必要なレーザー誘導弾は使い果たされており、それが原因かどうかは分からないが、2021年の上半期でアフガン空軍の攻撃による民間人の死者は41人に上る。空軍の弾薬とスペアパーツの補給は信頼できる米軍の兵站に頼っていた為、米軍が去った今、この兵站は崩壊している。更にメンテナンスを行う業者は米軍から委託されており、この業者も米軍と合わせて撤退しており、空軍の戦闘力は今後数カ月で失われるかもしれないと推測されている。この点は、今後、再度兵站を整備するなど改善の余地はあるかもしれないが、最も深刻なのは人員の不足だ。特にパイロットが不足している。その原因の一つがタリバンによるパイロットの暗殺だ。飛行する航空機を撃墜するのは難しいと判断としたのか、非番のパイロットを次々と暗殺して、空軍の弱体化を図っている。今年7月には暗殺を恐れた空軍少佐がより安全な地域へ引越しようと信頼する不動産のオフィスを訪れたところ、子供たちの目の前で銃撃され殺されている。アフガン政府は殺されたパイロットの数を公表はしていないが政府高官によると、ここ数ヶ月で少なくとも7人の空軍パイロットが基地外で暗殺された。パイロットは一朝一夕で育つものではなく、長い育成期間を必要とする。更に飛べる機体も少ないため訓練も簡単にはいかず、失った要員の補充は簡単にはいかない。
こういった状況を受けて、米軍は修理が必要な機体を第三国に移送させ、修理後にアフガンに戻すことを計画している。また、整備技術に関してもオンラインビデオを使ってアフガン人の整備工にレクチャーするなどしている。米軍の駐留は終了するものの、大使館や空港警備など最低限必要な保安要員650人を残す予定であり、引き続き航空支援を行うことは表明している。アフガニスタン空軍は対タリバンの要であり、米軍が絶対に死守するものと思われる。
Source
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/afghan-pilots-assassinated-by-taliban-us-withdraws-2021-07-09/
https://taskandpurpose.com/analysis/afghan-air-force-collapse/