中東の産油国イラクは空軍力を強化するため、フランスからラファール戦闘機の購入を計画しているが、支払いは現金ではなく、同国で産出される豊富な石油によって支払われると報道されている。
フランスの経済紙ラ・トリビューンの10月18日の報道によると、イラク国防省は多用途戦闘機の増強を計画しており、フランス・ダッソー社製のラファール戦闘機12機を総額32億ドルで購入する準備を進めている。既に頭金として、2億4000万ドルが支払われており、購入は確定といっていいだろう。イラク空軍は湾岸戦争時、100機近いミラージュF1戦闘機を運用しており、それ以来のフランス製戦闘機の調達になる。そして、今回、ユニークなのが、支払い方法だ。支払いは現金ではなく、産油国であるイラクから産出される「石油」によって支払われる。これはイラクが持つ豊富な天然資源を示すだけでなく、戦略的な経済配慮が伺える。イラクの石油埋蔵量は、約1,450億バレルで世界第5位。世界全体の原油確認埋蔵量の約8.4%を占めており、OPEC加盟国の中でサウジアラビアに次いで第2位の産油国だ。石油・ガス産業は、GDPの約60%、輸出額の99%、歳入の90%を占めており、世界で最も石油・ガスへの依存度が高い国になり、これまでも対外債務の返済を石油で支払うなど、現金の代わりに石油を使用している。
アメリカ依存脱却
ラファール戦闘機は、現在イラク空軍の主力となっているアメリカ製F-16戦闘機群を補完することを目的に2022年から調達が検討されていた。イラクは1991年の湾岸戦争前は約700機の戦闘機を保有するなど中東一の軍事力を誇っていたが、戦争によってその数は激減。2003年のイラク戦争前の在庫は180機までに減っていた。イラク戦争の敗北でイラク軍は壊滅。その後、アメリカ主導でイラク国防軍が創設されたが、空軍は僅か35人の構成で始まった。2014年には創設後、初の戦闘機としてF-16C/Dが空軍に納入され、現在は主力戦闘機として32機が配備されている。
イラクが位置する場所は昔から不安定な地域であったが、さらにロシア・ウクライナ戦争による国際情勢、そして、現在の中東情勢の不安定化もあって、イラクは空軍力の増強を決定した。多用途戦闘機であるラファールは制空権確保から地上支援まで幅広い任務に活用でき、シリア、イランといった隣国に不安を抱えるイラクの主権を守る上で重要な資産となる。更にラファールの選択は軍事面におけるアメリカ依存の脱却も透けて見える。
湾岸戦争でアメリカ軍主体の有志連合に敗北したイラクはアメリカ主導で再建、2011年まで米軍が駐留していたこともあり、軍の装備のほとんどはアメリカ製だ。現在も米軍を中心とした数百人の有志連合軍が駐留している。このアメリカ依存を脱却するため、2024年、イラクはパキスタンから12機のJF-17サンダー戦闘機の購入契約を締結。老朽化したロシア製のMi-17ヘリの代わりにエアバス社のH225Mカラカル輸送多目的ヘリコプター14機も発注している。また、新たな防空ミサイルシステムとして韓国の「天弓2(KM-SAMII)」を選択するなど、アメリカ脱却、兵器の多国籍化を進めている。ちなみに天弓は最大8機、総額28億ドルで取得する契約を締結しているが、これも石油で支払われる予定だ。フランスはこの機を逃さず、ラファールの他、カエサル自走砲の売り込みも行っているとされる。
イラクは2003年のイラク戦争、2013年のイスラム国との戦闘で国内が荒廃したが、2017年に国内のイスラム国を制圧して以降は比較的国内情勢は安定しており、豊富な天然資源を擁する国に湾岸諸国からの投資が活発化。エネルギー価格の急騰もあり、近年は順調な経済発展を遂げている。ただ、中東にはきな臭い空気が漂っており、もし、イスラエルとイランが戦争になれば、その間に位置するイラクにも火の粉が降り注ぐ可能性がある。イラクは自国の利益を守るため、軍の近代化と増強を図っている。
今回、フランスはラファールに搭載可能な長距離空対空ミサイル「ミーティア」の売却を断ったとされている。これにより、ラファールの制空戦闘機としての能力は著しく低下する。断った理由はイスラエルがイラクを領空を通過してイランを攻撃する際に妨げになる事を懸念し、イスラエルがフランスに圧力をかけたと言われている。