中国とインドが領有権を争い、衝突が頻発しているヒマラヤ国境のパンゴン湖において、2020年11月、中国軍はインド軍に占領された丘を取り戻すためにマイクロ波兵器を使用し、インド軍から丘を奪取したことが話題となりました。マイクロ波とは一般的に電子レンジに使用される電磁波で、物体に照射することで物質の分子を振動させて、その摩擦熱で物の温度を上昇させて加熱させます。食べ物に当てれば暖かい料理に変えてくれますが、人に当てればどうなるのでしょう?単純に考えれば人体が過熱されるのではと想像してしまいますが、ヒマラヤで実際に浴びたインド兵士の症状は嘔吐といった体調不良を引き起こし撤退しました。マイクロ波兵器とはどういった兵器なのでしょう?
指向性エネルギー兵器
マイクロ波兵器は実弾ではないマイクロ波というエネルギー波を使用することから、指向性エネルギー兵器(directed-energy weapon)、通称DEWと呼ばれます。SF作品に出てくるレーザー銃やビーム砲もDEWの一種です。
マイクロ波はレーダーや衛星通信といった通信用にも使われる電磁波の一種で、周波数でいうと300メガヘルツ(MHz)~300ギガヘルツ(GHz)の範囲を指します。電子レンジの一般的な周波数は2.45GHzで、マイクロ兵器はこれよりも高い周波数の電磁波を一定方向に集中、高出力で放射することで、兵器と応用しています。仕組みは基本的に電子レンジと同じでマイクロ波を当てることで対象を急速に加熱させます。このマイクロ兵器には2つの用途があります。
暴徒鎮圧
マイクロ兵器の主な用途の一つは暴徒鎮圧です。マイクロ波兵器で有名なのがアメリカのレイセイオン社が開発するアクティブ・ディナイアル・システム(ADS)です。95GHzと電子レンジよりもはるかに高い高出力のマイクロ波を放射する機器で、この兵器が放つマイクロ波が人体に当たると、人間の水分を急速に加熱され、痛みを引き起こし無力化させます。このADSが発生させる温度は44℃とされています。温泉などではよくある温度ですが、これが体内から熱しされます。ちなみに人体は51℃で一度の火傷を負います。テストでは照射から3秒で痛みを覚え、5秒以上耐えられる人はいませんでした。これをそれ以上浴びると、水膨れや二度の火傷を負う事もあります。マイクロ波兵器は非致死性兵器として捉えられていますが、目を損傷したり発癌性を及ぼしたりする可能性がある懸念があるとされ、米軍はアフガニスタンに配備しましたが人体への影響がまだ不明瞭なところもあり、実際に使用してはおらず、国際的に実用化されていません。今回の中国やロシアでは運用されているようです。
迎撃用
もう一つの使い方として、誘導爆弾やドローンといった飛翔体の迎撃兵器として開発が進んでいます。他の防空システムのように直接的な破壊をするのではなく、マイクロ波を照射することで、誘導装置を無力化させる若しくは、中の電子チップを破壊して制御不能にて墜落させます。誘導兵器やドローンは年々高性能化し、中は高密度の電子回路で満たされており高出力マイクロ波に対して脆弱です。マイクロ波は直接迎撃システムと比べて、攻撃範囲が広く、弾丸よりも早く、弾数に制限はなく低コスト、一度に多数の飛翔体を迎撃できます。米空軍には2019年から高出力マイクロ波を使用した防空システムして「THOR(トール)」を配備しています。