北アフリカのモロッコがアフリカ大陸の国では初めて第5世代ステルス戦闘機のF-35ライトニングIIを取得することになるかもしれないと報道されている。そうなれば、イスラム教を国教とする国としても初になる。
イスラエルメディアのIdentité Juiveによれば、北アフリカ西端に位置するモロッコは32機のF-35戦闘機の購入について米国と協議中だといい、「米国防総省は、今後数ヶ月以内に、モロッコが初のロッキード・マーティンF-35戦闘機を入手することを許可する合意を締結する予定だ」と述べている。これが実現すれば、モロッコはアフリカ大陸の国としては初めて第5世代ステルス戦闘機を取得する事になり、北アフリカ及び、地中海の軍事バランスは大きく変わる事になり、モロッコの地域大国としての地位を強固にする。中東の米国の同盟国であるサウジアラビアやバーレーン、NATOであるトルコもF-35は所有しておらず、採用が決まればイスラム教の国(トルコはイスラム教を国教していないが国民の9割以上がイスラム教徒)としても初になる。
モロッコのこの計画は、隣国アルジェリアおよび、西サハラにおける独立国家建設を目指す武装政治組織「ポリサリオ戦線」との政治的緊張の高まりによるものだ。同組織はアルジェリアが支援している。報道によると、モロッコは、米国の承認を得るためにイスラエルに支援を求めたという。モロッコは2020年12月に当時のトランプ大統領が西サハラの領有権問題でモロッコの主張を全面的に認める形で、イスラエルと国交正常化に同意した。モロッコとイスラエルの軍当局は、国交正常化同意後の2020年から2022年にかけてF-35の取得について交渉していたと報道されている。2021年11月にイスラエルのベニー・ガンツ国防相とモロッコのアブデラティフ・ロウディイ国防相との間で行われた画期的な会談の後、モロッコはこの購入を迅速に進めるためにイスラエルの支援を求めたという。モロッコは32機のF-35の調達と45年間の運用費を含め約170億ドルの予算がかかると予想している。
F-35の購入はアルジェリアのSu-57取得に向けた対抗
モロッコと隣国アルジェリアは建国以来、国境と西サハラの領有を巡って対立が続いており、互いに敵対行為が続いている。さらに、モロッコが多くのイスラム教徒が敵対視するイスラエルと国交正常化したことで対立は激化、イスラエルによるアルジェリアへの攻撃的な発言もあり、2021年8月にアルジェリアがモロッコとの国交断絶を発表している。そのアルジェリアはロシアのアフリカにおける最大の同盟国であり、T-90戦車をライセンス生産している。また、兼ねてからロシアが開発した第5世代ステルス戦闘機Su-57の最初の海外輸出先になると報じられている。だが、量産が進まず、ウクライナとの戦争が始まったこともあり、まだ実現されていないが、モロッコはアルジェリアのSu-57調達を警戒しており、F-35の調達はそれに対抗する狙いがあるとされる。モロッコ空軍は現在、23機のF-16C/D Block52を運用中だが、これら全てを最新のF-16Vにバージョンアップ、新たに25機のF-16 Block72の購入する事で米国と同意している。
米国製兵器を揃える王立モロッコ軍
モロッコは米国及び、西側よりの姿勢を見せており、多数の米国製兵器を購入している。2012年にはM1A1SAエイブラムス戦車200両を10億ドル以上で購入し、続いて2018年には、さらに最新バージョンである162両のM1A2 SEPv3エイブラムスを12億5,900万ドルで購入。M1A2 SEPv3は昨年までに100両を受領したとされる。米国の北アフリカの最大の同盟国であるエジプトが最近、保有するM1A1をM1A1SAにバージョンアップする事を承認された事を考えると、M1A2 SEPv3を既に取得しているモロッコへの米国の信頼が伺える。この他、ブラッドレー歩兵戦闘車500両の調達にも同意していると報じられている。
ロシア・ウクライナ戦争ではモロッコはウクライナを支持する立場をとっており、2023年1月にはアフリカの国としては初めてウクライナにT-72戦車を供与している。この戦車はかつて、ベラルーシから購入したものだ。