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ドナルド・トランプ米大統領は、米軍内最高位の将校である統合参謀本部議長CQ・ブラウン氏を解任した。他の5人の高官も交代しており、大統領の意にそぐわない高官の粛清が始まった。
I want to thank General Charles “CQ” Brown for his over 40 years of service to our country, including as our current Chairman of the Joint Chiefs of Staff. He is a fine gentleman and an outstanding leader, and I wish a great future for him and his family.
— Donald J. Trump Posts From His Truth Social (@TrumpDailyPosts) February 22, 2025
Today, I am honored…
「チャールズ・CQ・ブラウン将軍に、現在の統合参謀本部議長としての任期を含め、40年以上にわたり我が国に尽くしていただいたことに感謝の意を表したいと思います。彼は立派な紳士であり、傑出したリーダーです。彼と彼の家族の素晴らしい未来を祈ります。」とトランプ大統領はソーシャルメディアに投稿し、米軍の最高位である統合参謀本部議長CQ・ブラウン氏の解任を発表した。ブラウン氏は2023年10月に米軍最高位の将校となり、国家安全保障について大統領と国防長官の両者に助言するこの役職に就いた2人目の黒人将校だった。任期は4年で本来であれば、2027年9月までの在任が予定されていた。この他、海軍作戦部長リサ・フランケッティ大将と空軍副参謀長ジム・スライフ将軍、陸海空軍の法務長官を含む5人の高官を解任。フランケッティ提督はアメリカ海軍を率いた最初の女性であった。
トランプ大統領はブラウン氏の後継として最近までCIA軍事担当次官を務めていたダン・ケイン空軍中将を統合参謀本部の新議長に指名すると述べた。トランプ氏は彼についてSNSでこのように語っている。「私は空軍中将ダン・ラジン・ケインを次期統合参謀本部議長に指名することを光栄に思います。ケイン将軍は、熟練したパイロット、国家安全保障の専門家、成功した起業家、そして省庁間および特殊作戦の豊富な経験を持つ”戦闘員”です。 私の最初の任期中、ラジンはISISカリフ制の完全な壊滅に尽力しました。それは記録的な速さ、わずか数週間で達成されました。多くのいわゆる軍事の”天才”は、ISISを倒すには何年もかかるだろうと言いました。一方、ケイン将軍はすぐにできると言い、それを実現しました。」と称賛している。ケイン氏は既に軍を退いた退役軍人であり、ロイター通信は、トランプ大統領の今回の措置は”前例のない”ものであり、大統領が退役した軍人を統合参謀本部の長に復帰させるのは初めてだと指摘している。
多様性推進が理由か
トランプ大統領は選挙時から多様性・公平性・包摂性(DEI)政策を廃止する事を公約としている。エアフォース・タイムズによると、2022年に空軍参謀総長だったブラウン氏は少数派の士官志願者の割合を高め、白人候補者の割合を下げるという多様性の目標を定めた覚書に共同署名。また、2020年、黒人のジョージ・フロイドが白人警官に殺害されて始まった「ブラック・マター(BLM)運動」に理解を示す発言をし、注目を集めていた。こういった過去の言動がトランプ政権の意向にそぐわないとされ、トランプ政権下で国防長官に任命されたピート・ヘグゼス氏は以前「ブラウン将軍は軍における多様性、公平性、包摂性プログラムに”目覚めた”姿勢で取り組んでいるため、解任されるべきだ」と述べるなど解任の噂は以前からあった。実際、トランプ政権発足後直ぐの1月21日には沿岸警備隊のリンダ・フェーガン司令官を解任しており、その理由としては国土安全保障省は指導力欠如などを挙げたが、DEI政策に”過度”に重点を置いたとも述べている。ブラウン氏の解任理由は発表されていないが、多様性の推進が理由とされる。
軍の多様性の政策はバイデン政権下ではじまったが、軍が多様性を推進した理由の一つには軍の志願者不足を補うこともあった。陸軍は過去最悪の人員不足に陥っており、空軍は2023年の新兵募集が1999年以来、23年ぶりに目標を達成できなくなるなどし、米軍は対象年齢を広げたり、多様性をアピールし、あの手この手で新兵募集を行っていた。そもそも、解任された高官は前政権の指示に従っていただけだ。
軍の政治的利用が懸念
アメリカでは、大統領と議会が相互に抑制し合う「シビリアンコントロール(文民統制)」の原則が、軍と政治の分離を支えている。憲法で軍の最高指揮官は大統領と定められているが、宣戦布告や軍の徴募は議会が権限を持つ、軍の独走を抑止するために、議会に責任を負う文民(大臣)が軍をコントロールし、武力を背景とした軍の政治介入を予防しているが、今回のトランプ大統領による軍高官の粛清は指導力といった軍人としての能力・パフォーマンスとしては関係ない部分、政治的忠誠心を理由とした解任とされ、国防総省の政治化と指摘されている。
トランプ政権は先日、国防総省と米軍に対し、国防予算を大幅に削減する計画をまとめるよう指示しており、削減の目標は2026年から5年間、国防費年間約8500億ドルの8%でおよそ500億ドル、日本円で7兆5000億円の削減を迫るなど軍の改革を進めている。