ロシア軍、大砲撃ちすぎて砲身が不足

ロシア軍はウクライナで毎日1万発の砲弾を発射しているが、その分、砲身の消耗が激しく、消耗に対し、生産が追い付いていないと報じられている。

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エコノミスト誌の最近の報道によると、ロシア軍はウクライナで攻勢を強める上で最も重要な砲システムの部品である砲身の供給において窮地に陥っている。ロンドンのシンクタンク「王立統合軍事研究所」によると、ロシアは今年2月時点で戦場に5000門弱の砲システムを配備。毎日、1万発以上の砲弾を発射していた。これは第二次大戦以降では前例の無い規模のペースになる。しかし、これだけ、毎日砲弾を発射すれば、砲身の消耗は激しく、数か月の使用で砲身の交換が必要になるのだが、ロシア軍は砲身の消費に対して生産が現状間に合っていないと報告されている。

発射時に強力な圧力がかかる砲身は高級鋼を使った特殊な機械で作られるのだが、ワシントンに拠点を置く欧州政策分析センターによれば、ロシアには砲身製造に必要なオーストリア製の最新鋭回転鍛造機を保有する工場はわずか2カ所しかないとされ、各工場の生産数は年間50門、つまり、年間計100門になる。これらの機械は、2017年に最後に輸入されたもので、設備自体は古くないが、現状、生産数を遥かに上回るペースで砲身を消費している。しかし、生産数を増やそうにも、今のロシアに武器生産に必要な機器を当然、オーストリアが輸出するはずがなく、生産数を増やすことはできない。国外から輸入しようにも高精度な砲身を作れる国はドイツなど少数の国に限られ、ロシアに売る国は更に少ない。武器輸出大国であるロシアだが、砲身製造の技術に関してはこれまで外国の技術に依存してきた。1930年代から第二次大戦中にかけてはアメリカから砲身製造用の鍛造機械を輸入し、第二次世界大戦後には敗戦国のドイツから機械や技術を手に入れた。

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ロシアはウクライナ侵攻前に約1万5000門の牽引式砲システムを所有していたが、2024年2月までの2年間で半分の7000門まで減っている。自走砲に関しても4,450門から3000門に減少しており、単純計算ですれば、今のペースで戦争を継続し、砲弾を発射し続ければ、あと2年で牽引式砲は無くなる計算だ。牽引式砲に比べると自走砲の消費は少ないように見えるが、これは砲身不足を補うために旧式の牽引式砲システムの砲身を解体し、自走砲に挿げ替える手段を講じているためだ。ドローンや砲兵レーダーが発達した現在の戦争では、砲撃後は直ちに陣地転換しないと直ぐに反撃をくらうリスクが高いため、準備撤退に時間を要する牽引式砲よりも自走砲の需要が高く、優先される。ただ、残されている牽引式砲も半世紀も前の物になり、全てが状態よく保存されているわけではなく、実際に使用できるのは一部になり、耐久性はどんどん劣化していくことになる。実際、ロシア軍の砲身が爆発している写真がSNSに多数上がっている。これは砲身の消耗によるものだが、現場の兵士が想定していたよりも早く限界が来ているとの情報もある。

ウクライナ軍には砲身製造では世界トップの品質とシェアを持つ、ドイツ軍のラインメタルがあり、多数供与されている西側製の榴弾砲については適宜、砲身交換を受け、運用を続けている。ただ、せっかく高度な砲システムが揃っているのに日々、放てる砲弾の供給が絶対的に不足していた。現状はアメリカとEUの追加の軍事支援、砲弾の生産能力が上がったこともあり、解消されつつある。

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ロシアは現在月間25万発、年間約300万発ペースで砲弾を製造しているとされ、さらに北朝鮮やイランと友好国から砲弾を購入。圧倒的な火力で攻勢を強めていた。しかし、あまりある砲弾を消費するための砲身がないという、皮肉にもウクライナと逆のジレンマに陥っている形だ。更にウクライナの特殊部隊がロシア国内の砲システム生産・修理施設を攻撃することに成功している。今年7月、ムスタS自走榴弾砲をといった砲システムの製造会社ウラルトランスマッシュの工場で大規模な火災が発生。ロシアの重要な砲兵部品の保守・交換能力に影響を及ぼすとされている。

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ロシア軍、大砲撃ちすぎて砲身が不足
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