ロシア軍は2024年、侵略を続けるウクライナで新たに国土の0.69％に当たる面積を奪い取ることに成功した。しかし、その代償として約43万人の兵士と3000両の戦車、9000両の歩兵戦闘車を失ったと報告されている。
ワシントンに拠点を置くシンクタンク「戦争研究研究所（ISW）」が衛星画像と位置情報付きビデオ映像に基づいて行った評価によれば、ロシア軍は2024年、ウクライナ東部ドネツク州で徐々に、そして、着実に進軍を続け、4,168平方キロメートルの畑と廃村を新たにウクライナから奪い取ることに成功した。これはウクライナ国土の0.69％に相当、日本でいうと石川県や徳島県の面積に匹敵する。
ロシア軍は2024年中にアヴディーイウカ、セリドヴェ、ヴレダル、クラホヴェの中規模集落4つを占領したが、そのうち最大の集落の戦前の人口は3万1000人強だとISWは報告している。ロシア軍はアヴディーイウカの占領に4か月、セリドヴェとクラホヴェの占領にそれぞれ2か月を費やした。これらの内、最大の戦果がアウディーイウカとされる。同地は工業都市で、ヨーロッパ最大級とされる製鉄用のコークス工場がある。2014年から東部で始まっていた親ロシア派との内戦ではドネツク州の州都ドネツク市が親ロシア派に制圧されて以降、ここがドネツク州におけるウクライナ軍の最前線の防衛拠点になっていた。2022年2月にロシアの侵攻が始まって以降もここを死守してきたが、2024年2月にウクライナ軍は撤退。ロシア軍が制圧した。これで、ロシアによるドネツク州の完全支配に近づいたが、ISWはロシア軍の機械化部隊の進撃速度は遅く、アウディーイウカを制圧以降、ウクライナ深部への侵攻への戦術的効力を発揮できなかったと報告している。ロシアの政権よりの軍事ブロガーはアウディーイウカ占領を巡ってロシア兵1万6000人が死亡、300両の戦闘車両を失ったと投稿しており、制圧に伴う多大な犠牲が原因とされる。
ロシアは2024年、これらの戦果を得るためにおびただしい数の損害を出した。ウクライナ国防省はロシア軍の昨年2024年の人的損失が43万790人に上ると発表した。これはロシア軍の自動車化歩兵師団36個分に相当する数だ。ウクライナ国防省は2022年2月の開戦から2024年12月31日時点までのロシア軍の人的損失を79万人と報告しており、2022年、2023年を合わせた損失よりも2024年の損失が大きい事を意味する。ロシア軍は2024年9月から10月にかけて、ウクライナ領及び、ウクライナが制圧したロシア領クルスクの領土約1500平方キロメートルの制圧に成功。2か月間における制圧面積としては過去最大となったが、犠牲を顧みない攻撃で死傷者が急増。死傷者は1日平均1000人を超え、11月には平均が1500人を超えた。11月28日は2030人、12月19日は2200人と過去最高を記録。11月と12月の死傷者はそれぞれ、4万5720人と4万8670人だった。
2024年10月から始まった北朝鮮によるロシアの派兵。こちらの損失も顕著でウクライナのゼレンスキー大統領は、12月23日の時点で北朝鮮兵の損失は3000名が超えると報告している。最初の派兵が1万1000人とされるので、4分の1を3か月の戦闘で失ったことになる。
人的損失が増えれば、兵器の損失も増える。ウクライナ軍参謀本部の報告によると、2024年1月1日から2025年1月1日の間に、ロシア軍は戦車3,689両、歩兵戦闘車8,956両、砲システム13,050門、防空システム407基を失った。また、ウクライナ海軍はロシア海軍の艦船5隻と小型船舶458隻を破壊したと報告している。特に砲システムの損失が顕著で開戦以降の統計が21000門なので、半分以上を2024年に失ったことになる。ロシアは戦車の増産を急ピッチで進めているが、年間の生産数は最大300両ほどとされ、損失に対して生産は全く間に合っていない。ロシアは大量にあった旧式兵器の備蓄を復活させる事で何とかやりくしていたが、それらの備蓄も状態の良かったものはほとんど戦線に出されている。備蓄量は戦前と比較して過半数を割ったが、それでも昨年12月時点で戦車が約47％、歩兵戦闘車が52％、装甲兵員輸送車が45％残っているとされる。状態やいつのものかは不明だ。
これだけの損害を出しても、ロシア軍はまだ戦争継続能力があるとされる。プーチン大統領は人的リソースの大部分を戦争に投入。そのため、国内の労働者が減っているが、それを外国人で補うなどしている。そして、プーチン大統領はその外国人も戦力に組み込もうとしている。プーチン氏は今年4月までに不法移民について国外退去させる法令に署名したが、軍務に就くことで、違法身分を免除すると発表している。ロシアには1000万から1200万人の外国人労働者がいると推定されており、そのうち700万人以上が正式な居住許可や就労許可を持っていないと考えられる。軍に入隊すれば高額な報酬と公的な身分を得る事が出来るため、一定数が入隊する可能性は高い。
