スウェーデンは29日、ウクライナにSaab 340(ASC-890)早期警戒管制機(AEW&C)を2機供与する事を発表した。早期警戒管制機のウクライナへの供与は初であり、配備されればウクライナの防空能力は飛躍的に向上することになる。
Just announced: Sweden will donate a new military capability to strengthen Ukraine’s air defence. Package 16 will be the largest 🇸🇪 military aid package yet at €1,16bln. Sweden will donate Airborne Surveillance and Control aircraft (ASC 890) to 🇺🇦. (1/6) pic.twitter.com/iRqGeQE9oJ
— Pål Jonson (@PlJonson) May 29, 2024
スウェーデンのパル・ジョンソン国防相は5月29日ウクライナに対する総額11,6億ユーロ(約2000億円)の新たな軍事支援パッケージを発表した。この支援の目玉が2機のSaab 340早期警戒管制機だ。国防相は発表の中で早期警戒管制機の事を「ASC-890」と呼んでいるが、「ASC-890」は”空挺戦闘指揮および空中監視プラットフォーム”の名前で、これを搭載したSaab 340 AEW&Cを提供する。国防相は「この航空機はウクライナの防空に役立ち、飛来する巡航ミサイルやドローンを識別し、地上と海上の両方の目標を特定できる」と述べた。Saab 340は数百キロ離れた脅威を検出し、その情報をデータリンク経由でウクライナがNATOから受け取った防空ミサイルシステム、そして、来月には供与される予定のF-16戦闘機に送信することができる。ウクライナのゼレンスキー大統領は、スウェーデンの最新の支援パッケージは「ウクライナの防衛と回復力にとって極めて重要」となると述べた。
Saab 340 AEW&C
Saab 340はスウェーデンの軍事企業Saab(サーブ)社によって開発された早期警戒管制機(AEW&C)。スウェーデン空軍内では「S 100B Argus(アルグス)」と呼ばれている。民間仕様の双発ターボプロップ機のSaab 340をベースに1990年代に開発、1997年にスウェーデン空軍に配備された。スウェーデン以外ではタイ空軍、ポーランド空軍が運用している。コックピットにはパイロット2名とミッション コマンダー 1 名が搭乗、最大6名が搭乗する。通常巡航速度は300km/h、最大速度は480km/h、実用上昇限度7620m、飛行時間は5時間。
機体上部に取り付けられた長方形の物体がErieye(エリアイ)レーダーシステムのアクティブ・フィズドアレイ(AESA)レーダーPS-890になる。このレーダーは高度20,000フィート(6,100m)で300度の視野をカバーし、最大300〜400kmの範囲の航空機、ミサイルを検知、追跡する。敵味方を識別する機能があり、海上監視モードも備えており、船舶も検知する。NATO防空指揮統制システムと完全な相互運用性を備えており、取得した情報はNATO諸国からウクライナに供与されるF-16戦闘機にデータリンクで即座に共有される。ポーランドやスロバキアから供与されているソ連製のMig-29戦闘機はNATO規格に改修されたものなので、おそらく、これらにもデータは共有できると思われる。
スウェーデン空軍には6機のSaab 340が配備されており、そのうち4機には早期警戒レーダーが常時装備され、2機は平時の輸送任務用の装備が施されている。早期警戒レーダーを装備した機体を供与するのか、輸送用の機体を改修して供与するのかは不明だ。早期警戒機はスウェーデン空軍にとっても貴重であり、輸送用の機体を改修する可能性はある。ただ、2027年に2機の新しい AEW&C「GlobaEye」が就役予定であり、それと入れ替わりという可能性もある。
ウクライナは1991年にソ連から独立して誕生して以降、これまで早期警戒機を配備、運用した経験はなく、供与されればウクライナ空軍史上初となる。供与時期は不明だが、搭乗員の訓練は長期間にわたる可能性がある。NATOはこれまで早期警戒管制機をウクライナ周辺に飛ばし、ロシア軍の動向を監視、ウクライナに共有しているとされる。しかし、ウクライナ領空に入ることはロシアに参戦とみなされるため、監視には限りがあった。ウクライナ国内で早期警戒管制機が運用できれば、防空能力は飛躍的に向上する。