ドイツ連邦軍は欧州および国際安全保障情勢の緊張と変化に対応するため、陸軍指揮下に新たにドイツの領土防衛を担当する師団レベルの「領土防衛隊」を新設すると発表した。
DWなどドイツメディアの報道によれば、ドイツ連邦軍は欧州及び国際安全保障の緊張、脅威が迫る中で状況の変化に対応できる自国領土防衛のみを任務とする新師団を陸軍指揮下に創設すると1月11日土曜に発表した。同師団には既存の予備役部隊がすべて組み込まれ、総兵力は少なくとも2万人規模になる。新師団は4月1日に発足する予定だ。現在、陸軍にはそれぞれ2万人規模の第1装甲師団、第10装甲師団、および即応部隊師団 (DSK)の3つの師団があるが、領土防衛隊の創設により、4師団体制となる。陸軍の現在の兵力は6万4000人だが、新旅団は全員予備役兵で構成されるため、現在の陸軍の人員に影響はない。
ドイツ軍には戦後の1950年代に予備役兵で構成され、領土防衛を担う領土軍(Territorialheer)が創設されたが、冷戦の終了、2001年のドイツ連邦軍再編に伴い解散。予備役部隊は新たに新設された武装支援司令部隷下になった。部隊は地域に根ざす形で連隊4個と中隊37個に分けられ、各地方自治体によって指揮運営されていた。そのため、作戦能力は乏しく、隊によって練度には開きがあった。これを統合、一元管理する事で準軍事組織として領土防衛に特化した新たな師団を作り上げる。
現在、ドイツ連邦陸軍3師団の最大の使命は自国領土を守る事だ。新たに領土防衛を担う師団が誕生することで、国内のインフラや軍事施設、重要拠点の防衛は新師団に任せ、3つの師団はNATO軍として、これまでよりも多くの任務を担うことが可能になる。NATO国境、つまり、フィンランド、バルト三国、ポーランドといったロシアと国境を接する国に部隊を展開、駐留する事が容易になる。現在もドイツ軍はリトアニアに800人の兵を駐留させているが、旅団規模、4000人程度の兵力を同国に常駐させる用意があると明らかにしている。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州及びNATOは冷戦後最大の緊張状態にある。ドイツのボリス・ピストリウス国防相は昨年12月、ロシアのプーチン大統領が2029年までにNATO同盟国に対して戦争を起こす可能性があると警告している。NATOとロシアとの間で戦争が始まれば、ドイツの港や幹線道路、空港は輸送、兵站拠点になるとされ、アメリカ、カナダ、イギリスなどドイツより西の同盟国からの兵員や軍事物資は主にドイツを経由をして東側に送られると予想される。これら兵站拠点の防衛、円滑安全に物資を輸送させるのも領土防衛隊の役目になってくる。既にハイブリット戦争は始まっているとされ、ドイツ国内ではロシアのスパイによるものとされる破壊活動が度々発生している。
領土防衛隊とは
領土防衛隊とはその名の通り、自国領土を防衛するために創設された部隊。正規軍とは違い、予備役や志願兵によって編成され、本業の傍ら、定期的に訓練を行い、いざ有事となれば国土防衛のために戦う。フィンランドやスウェーデン、バルト三国、ポーランドなど、ソ連・ロシアの脅威に晒されてきた国に多い。ウクライナにも領土防衛隊はあり、外国人義勇兵は領土防衛隊に編入されている。ウクライナ軍の精鋭部隊とされるアゾフ旅団ももともとは領土防衛隊として発足している。アメリカは州兵が領土防衛隊の位置づけになる。ただ、他の国の部隊が領土防衛に特化しているのに対し、州兵は米軍隷下として海外にも派遣される事がある。合衆国大統領・連邦政府の管轄下の米軍に対し、州兵は州知事・州政府、大統領・連邦政府と二重管理下に置かれており、平時は州知事の管轄下にあるが、大統領令によって連邦管理下に置かれ、海外に派遣される。州兵はイラクやアフガニスタンにも派遣されている。米軍の州兵は戦闘機や戦車を保有するなど一国の軍隊並みの戦力を持っている。