黒海での防空任務を担っていた巡洋艦モスクワが撃沈されてから、防空能力が低下した黒海艦隊はウクライナの対艦ミサイル、ドローンの攻撃を恐れ、沿岸に容易に近づけなくなっています。そこで、黒海艦隊はある対策を行いました。それは、艦尾のヘリコプター甲板に地上対空兵器のTor-M2KMを搭載することです。
巡視船ヴァシリー・バイコフに搭載
黒海艦隊が保有する巡視船・哨戒艇ヴァシリー・バイコフ。ウクライナ侵攻初日に旗艦モスクワと共にスネーク島に進撃し、砲撃を行った黒海艦隊の主要艦です。「プロジェクト22160巡視船」クラスのこの船は2018年に黒海艦隊に就役しました。1700tクラスの軽フリゲート艦にも分類されるこの船にはVLSタイプの8〜16基の対空ミサイルを搭載するように設計されていますが、実はまだ搭載されておらず、14.5mmMTPU機関銃といった単純な防空兵器しか装備していません。モスクワに随伴している分にはモスクワが防空を担ってくれてたのでよかったのですが、モスクワが無き今、対艦ミサイルの攻撃を受ければ防ぎきることはできません。かといって、対空兵器搭載のための改修を行えば、数か月間ドック入りせねばならず、戦時中の今、貴重な戦力を失うことになります
The SA-15 in question to me appears to be a tracked regular Tor-M1/2 model and not the modular Tor-M2KM previously mounted and tested on Russian Navy warships.
— Kemal (@kemal_115) June 7, 2022
I wonder if the regular Tor-M1/2 can be integrated into the ship’s CMS. https://t.co/b4mkMsXFRP pic.twitter.com/Y5KecwW5pf
そこでヴァシリー・バイコフは手っ取り早く、防空システムを手に入れるために、陸上の防空システムであるTor-M2KMを艦尾の飛行甲板に乗せました。Tor-M2のレーダーは最大25kmの範囲の標的を48個まで検出、8発から最大16発のミサイルを搭載し、1000~12,000mの距離、最大高度10,000mの範囲にいるターゲットを撃墜します。Tor-M2KMを搭載したことによりヴァシリー・バイコフの防空能力は大幅に向上しました。このような方法は今に思いついたことではなく、2017年にTor-M2を艦に搭載するテストは行われています。
しかし、これにはいくつか気になる点があります。まず、高い艦橋がレーダーを邪魔するため、艦首側のレーダー探知がブロックされる可能性があります。Tor-M2KMは甲板にチェーンで固定されているようですが、そもそもそのような運用を想定していないため、荒れた海の揺れに耐えられるのかは不明です。また、陸上兵器であり、海上での利用を想定していないため、塩害対策が施されていません。また、Tor-M2が高高度を飛行するウクライナのバイラクタルTB2の攻撃によって破壊されており、どこまで有効性があるのかはわかりません。