アメリカ国務省は13日、日本向けに最大9機のKC-46Aペガサス空中給油機を41億ドル(約5763億円)で売却する事を承認した。これは現在、航空自衛隊に配備されているKC-46Aの2倍以上にあたる数となる。
最大9機のKC-46Aの他、最大18基のPW4062ターボファンエンジン、最大16基のAN/ALR-69Aレーダー警戒受信機(RWR)、最大33基の大型航空機赤外線対抗装置(LAIRCM)ガーディアンレーザータレットアセンブリ(GLTA)およびその他の関連周辺機器、および試験が含まれる。国防安全保障協力局(DSCA)は売却承認について、「インド太平洋地域の政治的安定と経済的発展の原動力である主要同盟国の安全保障を改善することにより、米国の外交政策目標と国家安全保障目標を支援することになる。提案されている物品の売却により、日本の空中給油能力と旅客輸送業務が改善され、地域における現在および将来の脅威に対する抑止力の強化に貢献することになる。日本はすでにKC-46A空中給油機を保有しており、これらの機材を自国の軍隊に取り入れることに何の問題もないだろう。この装備と支援の売却提案は、この地域の基本的な軍事バランスを変えるものではない。」と述べている。
航空自衛隊はこれまで6機のKC-46Aペガサスを発注しており、最初のKC-46Aを2021年10月に受領。これまで4機が納入されており、2025年度予算の概算予算要求では、新たに4機分、2068億円の予算を計上している。今回、承認を受けた9機が全て納入されれば、空自のKC-46飛行隊は15機体制になる。空自にはKC-46の前モデルで、同じボーイング767をベースにしているKC-767空中給油機が4機、C-130輸送機ベースのKC-130を3機保有しており、これらと合わせれば空自の空中給油機は最大22機体制となる。空中給油機は最も需要の高い航空資産の一つであり、空中での戦闘任務を維持する上でその有無が勝敗を分ける可能性がある。飛行場が攻撃を受けた際、戦闘機を一時的に退避させる、敵の攻撃拠点に反撃するには空中給油機が必須だ。空自はこれまで航空機の保有数に対し、空中給油機が足りないと言われていた。
KC-46A空中給油機
KC-46ペガサスはアメリカのボーイング社の旅客機767-200ERから開発した空中給油機および戦略軍用輸送機になる。767は世界で1200機以上が納入されている信頼できる機体で、ワシントン州エバレットの 767の生産ラインで製造されている。1957年に就役したKC-135ストラトタンカーの後継として2011年に米空軍に採用が決定し、計179機を発注、2019年から運用が始まった米軍が運用中の空中給油機としては最も新しいモデルだ。最先端のアビオニクスシステムを備え、ボーイング787から派生したグラスコックピットシステムを搭載。優れた耐干渉性と暗号化機能を備え、より多くの燃料と貨物、要員を運ぶための貨物スペースが確保されている。最大速度は915km/h、巡航速度は851km/h、航続距離は11,830km。最大離陸重量は188,240kgで29トンの貨物と95.5トンの燃料を運ぶことができる。配備しているのは現在、アメリカ、日本、イスラエルの三か国のみになり、ボーイング社によれば、KC-46Aの機体の16%は日本のパートナー企業によって製造されている。
空中給油システム
空中給油機としてKC-46には最先端の給油システムが備えられており、主に空軍機に対応した給油機側が操作して受油機側の給油口に給油ブームを挿入する「フライング・ブーム式」、海軍・海兵隊機に対応した受油機側が操作して給油機側のブームの受け口(ドローぐ)に挿入する「プローブ&ドローグ式」の双方に対応、米軍機の97%に給油が可能だ。フライング・ブーム式の場合、KC-46より前の機体では給油機側のフライングブーム(可動式給油パイプ)を操作して、受油機の給油口に合わせる必要があり、ブームを操作する空中給油オペレーター(ARO)には繊細な操作が要求されたが、KC-46Aでは「フライ・バイ・ワイヤ」を採用。操作を電気信号に変換し、飛行制御用計算機で処理して操縦舵面を動かすアクチュエータに指令を出し、電子制御によって作動を意識的に操作できるようデジタル化、オペレーターの負担を軽減している。
しかし、KC-46には問題が多く、初期の頃には燃料漏れや給油遠隔視認装置の遠隔画像システムが太陽光反射で見づらかったり、パノラマ映像に歪みが見られる不具合が確認された。これらは現在、解決されたものの、今度は最も重要なブームを引き込むことが出来ない問題が米空軍、空自の機体でも確認された。これから生産される機体は問題ないが既存機体の改修には2025年までかかる見込みだ。