短距離対空ミサイルを搭載したウクライナ軍の無人艇がクリミア半島に近い黒海上空でロシア軍のMi-8ヘリを撃墜した。無人艇はこれまで、数々のロシア海軍黒海艦隊の艦艇を撃沈させてきたが、上空を飛行するヘリを撃墜するのは初になる。
ウクライナ国防省情報総局の特殊作戦部隊GURの「Group13」は2024年12月31日、クリミア半島最西端のタルカンクート岬沖の黒海上空で高速無人艇MAGURA V5に搭載された対空ミサイルでロシア軍のMi-8ヘリを撃墜する動画を公開した。公開された動画は無人艇視点のもので、Mi-8から機銃を撃たれているのか、海上には銃弾の水しぶきのようなものが確認できる。その後、無人艇から放たれた対空ミサイルがMi-8に向かっていく様子が確認できる。Mi-8はフレアと思われるデコイを発射し、ミサイルを回避しようとしているのが確認できる。攻撃を受けたロシア軍のMi-8ヘリは2機とされ、その内の1機が海上に墜落した。もう1機は損傷したものの、何とか基地に帰還したとウクライナ当局は発表している。
攻撃に使用されたミサイルはソ連時代に開発されたR-73短距離対空ミサイルになり、GURはこれを「R-73 Sea Dragon」と呼んでいる。R-73は本来、航空機搭載用に開発された短距離空対空ミサイルで射程は最短300m、最大30km。赤外線捜索追尾システムを搭載しており、標的を自律追跡する。Sea Dragonと呼んでいることから、海上仕様に改修されている可能性がある。
対空ミサイルを搭載した高速無人艇MAGURA V5
今回、Mi-8を撃墜したいのはウクライナ国防省情報総局の特殊作戦部隊「Group13」が運用する高速無人艇「Magura V5」という船だ。全長5.5m、重量1000kg、巡航速度は41km/h、最高速度78km/hで水上を移動する。航続距離は800kmでウクライナ西にあるオデッサからクリミア半島全域は勿論、ソチを含むロシアの黒海沿岸部全域を航行範囲に納めている。稼働時間は最大60時間で400km以内で遠隔操作が可能。慣性誘導、GPSによる自律誘導も可能だ。船には昼夜カメラが搭載されており監視、偵察、哨戒、捜索救助、機雷対策、海上警備といった任務を海上でこなすが、主な任務が300kgの爆薬を積んで敵の船に突っ込む特攻だ。小回りが利き、移動する船も捉える事ができる。「Group13」はこの無人艇を使用し、これまで大型揚陸艦シーザー・クニコフなど、少なくとも3隻の船を沈めている。「Magura V5」は自爆無人艇としての用途が主だったが、2024年5月に2発のR-73対空ミサイルを装填した簡易的なランチャーを搭載するモデルが確認されていた。これは自爆無人艇の護衛及び、黒海上空を飛行するロシア軍機を迎撃する事を目的に設計されたものとされる。しかし、最初に確認された際はロシア軍のヘリを撃墜することができず、撃沈されていた。しかし、今回、リベンジを果たした形だ。Mi-8ヘリのコストは1500万ドル前後とされる。それに対し、Magura V5の価格は30万ドルほどだ。