ウクライナ軍のロシア領内クルスク侵攻の目的は?

ウクライナ軍のロシア領内クルスク侵攻の目的は?
Telegram

ウクライナ軍は8月6日、ロシアのクルスク州に越境攻撃を行い、ロシア領内に軍を進めました。これまで、ロシア人義勇部隊「自由ロシア軍団」による散発的な越境攻撃はありましたが、2022年2月にロシアによる侵攻が始まって以降、ウクライナ正規軍がロシア領内に侵攻するのは初です。これまで、侵攻を受ける側だったウクライナが逆にロシア領内を攻める理由はなんなのでしょう。

sponser

ウクライナがロシア西部クルスク州に奇襲侵攻してから4日目、ゼレンスキー大統領は公式に越境攻撃を行っていることを初めて認めました。参加している部隊は最大5個旅団、人員1万人、装甲車両600両にのぼる可能性があり、侵攻にはドイツ製のマルダー歩兵戦闘車やアメリカ製のストライカー歩兵戦闘車といった西側製戦闘車も参加しています。また国境付近には侵攻部隊を支援するため、パトリオット防空ミサイルや高機動ロケットシステムHIMARS、AS90自走榴弾砲といった砲兵部隊を配置。航空支援に駆け付けたロシア軍機を撃墜し、ロシア軍の増援部隊をHIMARSによって撃退しました。

侵攻には第22独立機械化旅団、第80独立空中強襲旅団といった精鋭部隊も参加。ロシア軍の第一線級の部隊はウクライナ侵攻に駆り出されており、国内に残るのは第二線級の部隊ばかりで、国境警備隊は早々に降伏、援軍に駆け付ける部隊もウクライナ軍が事前に高速道路の監視カメラをハッキングし、動向を事前に察知するなどして迎撃します。侵攻4日で既にクルスク州のおよそ400平方kmを占領し、ガスパイプラインの重要施設があるスジャの町を制圧するなどウクライナ軍の奇襲攻撃は成功しました。しかし、国内戦線が劣勢な状況の中、大規模な戦力を投入して、ロシアに侵攻する事に懐疑的な意見も多いのは事実です。アメリカ・ホワイトハウスは自衛的な措置として、ロシア領内に攻め入る事自体は支持していますが、その意図を分かりかねているとして、ウクライナと連絡を取り合っていると報道官は述べています。この事から表向きは事前にロシア領内への侵攻についてアメリカに報告がなかったと言う事になります。では、なぜ、ウクライナはこのタイミングでロシア領内に攻め入ったのでしょう。

sponser

ロシア軍の戦力分散

目的の一つとして推察されているのが戦力の分散です。  ロシア軍は7月、ウクライナ軍が昨年行った大規模反転攻勢で奪還したウクライナ東部や南部の拠点を再び制圧するなど、攻勢を強めており、戦力で劣るウクライナ軍は劣勢に陥っています。今回、ウクライナ軍がロシア領内の広い範囲を短期間で制圧した事で、ロシア軍は部隊の再配置を余儀なくされ、戦力は分散されます。先ほど述べたようにロシア国内に残るのは二線級の部隊や治安部隊になり、練度も士気も低く、ウクライナ正規軍には太刀打ちできません。すでに東部・南部戦線からクルスク州に部隊が移動しているという報告があります。ウクライナ軍にはロシア領内を侵略する意図はなく、一定期間が過ぎたら、撤退すると思いますが、一度大規模な侵略を受ければ、ロシア軍は警戒して、一定数の戦力を国境警備のために割く必要があり、東部南部の戦力は削られます。

sponser

士気向上

もう一つ考えられるのがウクライナ国内の士気を上げるためです。先ほども述べたようにウクライナ軍はここ最近、劣勢を強いられていました。侵略される側だったところが今度は逆にロシア国内に侵攻、瞬く間にロシア領内の広いエリアの制圧に成功した事は兵及び国内の士気を上げます。

エネルギーインフラの制圧

もう一つがロシアのエネルギーインフラを抑える事です。ウクライナ軍が制圧したスジャの町にはロシアのエネルギー大手ガスプロムが所有する主要ガス施設があります。ここは天然ガス輸送拠点になり、ロシアの天然ガスをウクライナ経由でヨーロッパに輸送する唯一のポンプ場がある場所です。実はロシアとウクライナは戦争中にも関わらず、ウクライナは今でもソ連時代のガスパイプラインを年間20億ドルでガスプロムに貸し出しています。ハンガリー、スロバキア、オーストリアなどの国々は、西側の制裁にもかかわらずロシアとのエネルギー取引を続けており、ガスプロムは2023年にスジャ経由で約149億立方メートルの天然ガスを供給しました。これはEU消費量の約4.5%に相当し、ロシアのヨーロッパへのガス輸出量のほぼ半分に相当します。ただ、このパイプラインのウクライナとの契約も来年1月で切れます。

sponser

エネルギー供給が不安定になれば、ロシア経済も不安定になります。また、オーストリアは中立国であり、ハンガリーはもとより親ロシア派でこれまでもウクライナの支援は行っていません。スロバキアも昨年の政権交代でウクライナへの軍事支援はストップしており、ウクライナ側の外交的影響は小さく、ロシアの経済を不安定化させる事が重要だと思われます。そして、スジャの東70kmの場所には世界最古の原子力発電所の一つであるクルスク原子力発電所があります。ロシアはウクライナへの侵攻後直ぐにヨーロッパ最大の原発「ザポリージャ原子力発電所」を制圧し、ウクライナの電力網を不安定化させると共に原発を人質にとりました。施設内に部隊を駐留させていますが、放射能漏れの恐れがある原発には攻撃はできず、取り返すのは容易ではありません。仮にロシア軍が撤退するとしても、腹いせに爆破する可能性も否定できません。クルスク原発を抑えれば、原発同士の人質交換ができます。

これらはあくまで推察です。ウクライナ軍のロシア領内侵攻の目的はなんなのでしょう。

sponser
sponser
ウクライナ軍のロシア領内クルスク侵攻の目的は?
フォローして最新情報をチェックしよう!