世界で一番銃の所持が厳しいといわれる日本において、銃の所有は自衛隊や警察などの法執行機関の限られた一部だけだ。猟や競技目的で所有する人もいるがその絶対数は非常に少ない。銃の市場が非常に小さい日本でも僅かながら銃を製造するメーカーがある。今回は数少ない日本の銃メーカー4社を紹介する。
豊和工業
日本の銃メーカーと言われて一番先に思いつくのが愛知県清須市に本社を置く機械メーカー「豊和工業」になる。東証一部に上場する大手企業になり工作機械、油圧機器、特殊車両などの製造を行っている。1907年の設立時は「豊田式織機」という社名で、あの世界的自動車メーカー「トヨタ」の兄弟会社でもあった。戦前から銃器の製造を行っており、「三八式歩兵銃」「九九式小銃」と日本陸軍の主力小銃の製造を担っていた。戦後になり、GHQの命令で銃器の製造を中止せざる負えなくなるが、朝鮮戦争の勃発により米軍より銃器、弾薬の製造の発注を受けることになる。1951年より銃器の製造が許可され1956年から本格的に銃器製造の事業を再開する。以後は自衛隊用の国産小銃の開発製造メーカーとして「64式7.62mm小銃」「89式5.56mm小銃」の製造を行ってきた。その他、警察のSATが使用する狙撃銃「豊和M1500」やライセンス生産で「L16 81mm 迫撃砲」「カールグスタフ無反動砲」を自衛隊に卸しており、小銃をメインにしながらライフルや投擲弾など幅広い銃器を製造している。天皇の即位で自衛隊の儀じょう隊が持っている儀仗銃も豊和工業による銃になる。 2020年には同社が開発した「HOWA 5.56」が「20式5.56mm小銃」として自衛隊の次期小銃として採用された。
令和初の国賓として5月に来日したトランプ大統領。新天皇皇后両陛下と会見されましたが、皇居に訪れた際に実施されたのが栄誉礼。特別儀仗隊が並び、トランプ大統領に敬意を表しました。テレビで生中継された今回、初めて特別儀仗隊を見た方も多かったと思[…]
ミネベアミツミ
長野県北佐久郡に本社を置くベアリング、モーターを手掛ける東証一部上場の機械機器製造の大手メーカーになる。小型のボールベアリングの製造では世界シェア首位をほこる。1975年に自衛隊・警察向けの拳銃を製造していた新中央工業を吸収合併し、銃器事業に参入する。銃器製造といった防衛関連事業はあまり公にしたくないのか、サイトを見ても当事業に関する情報の記載はない。銃器は日本で一番目に触れることが多い警官の38口径銃「ニューナンブM60」「S&W M360J SAKURA」、自衛隊が所持するSIG220のライセンス生産「ミネベアP9」、更にイスラエルIWI社の「Uzi(ウージー)」のバリアントである「ミネベアM-9」を製造している。
住友重機械工業
住友グループの造船・各種製造装置や精密機械など手掛ける東証一部上場の世界的な総合重機企業になる。造船やプラント、建設機器と比較すると規模が小さく見えてしまうが自衛隊の機関銃の生産はこの会社が担っている。戦後に日特金属工業が国産の「62式7.62mm機関銃」を開発する。その後、日特は住友重機に吸収され、住友重機が機関銃の生産を担うことになる。その後に国産の「74式7.62mm機関銃」が誕生するが、現在では自衛隊の軽機関銃はベルギーのFNハースタル社の「MINIMI」に代わっており、住友重機はライセンス生産で自衛隊に卸している。この他にも戦車などの車載機関銃である「M2・12.7mm重機関銃」などの生産も行っている。しかし、自衛隊の次期機関銃の開発から撤退しており、機関銃生産から撤退するものと思われている。
ミロク
高知県南国市に本社を置く猟銃、工作機械の製造メーカーになる。上の三社と比べると東証二部と規模は劣るが銃器メーカーとしての歴史は1893年の鉄砲鍛冶屋の頃まで遡るほど歴史は古い。今でも銃器製造を事業の柱の一つにするなど日本では珍しい会社になる。銃の製造はグループ内のミロク製作所が担っている。自社ブランドの上下二連散弾銃「B.C.MIROKU」、それにアメリカのBrowning(ブローニング)社と提携し、「Browning」、「Winchester」のと2つのブランドのOEM生産を行っている。製造するのは猟銃、競技用のショットガンと上の三社と違い一般の方が持てる銃が主になる。しかし、国内の市場は極めて小さく、製造する銃の99%を海外に輸出している。アメリカで見かける Browning、Winchesterの銃がミロク製ということも大いにありえ、Made in Japanの記載があればそうだろう。
それぞれの棲み分け
こうしてみると日本の銃メーカーは棲み分けが出来ている。
「小銃の豊和工業」
「拳銃のミネベアミツミ」
「機関銃の住友重機工業」
「猟銃のミロク」
といった形だ。銃の市場が極めて小さい日本、海外輸出においても制限ある中で、限られた市場を奪い合わないようにこのような形になったのだろう。それでも各社の銃器部門は苦労しているようだ。