アメリカ政府はウクライナの支援としてロシア製の多用途ヘリコプター「Mi-17」を提供しています。実はこの機体、もともと、アフガニスタン支援のためにアメリカがロシアから購入し、アフガニスタン空軍で使用されていた機体になります。
16機のMi-17を提供
アメリカはウクライナにロシアの侵攻初期に5機の中型多目的ヘリMi-17を提供、そして5月には追加で11機が提供され、その写真が公開されました。しかし、その機体にはウクライナの環境には合わない、中東・砂漠仕様の迷彩ペイントが施されています。実はこの機体、昨年8月までアフガニスタン空軍で運用されていた機体になります。
タリバンから逃れた機体
2013年、アメリカはアフガニスタン空軍で使用するために以前から使用され、扱いにも慣れたロシア製のMi-17ヘリ30機をロシアの軍事輸出企業Rosoboronexportから総額5億7千万ドルで購入します。Mi-17は1970年代にソ連で開発され、ロシア国内ではMi-8と呼ばれ、今なお生産が続く、ロシア製(ソ連製)ヘリとしては最も成功したヘリです。安価でタフで整備しやすく、これまで延べ17000機が製造されています。3人の乗組に加え、24人の人員、12個の担架、または約4,000kgの貨物を運ぶことができます。輸送、偵察の他、武装換装して攻撃ヘリとしても使用できる多目的ヘリです。
アフガニスタンではタリバン掃討のために活躍するも、昨年8月にタリバンがアフガニスタン全土を制圧すると、アフガニスタン政府軍は極一部を除いて早々に降伏、多くの兵器がタリバンの手に渡ります。しかし、空軍は基地が完全にタリバンに制圧される前に数十機のヘリと航空機が空路、隣国のウズベキスタンやタジキスタンに脱出、タリバンによる鹵獲を免れました。その中には約20機のMi-17もあったとされ、脱出した機体はその後、米軍基地に移動され、米軍の管理下になります。
トルコ航空協会(Turkish Aeronautical Association:THK)とウクライナ防衛貿易会社(Ukrspecexport:USE)は共同でロシア製ヘリコプターMi-17の修理・保守サービスを提供する企業を設立[…]
脱出したMi-17の管理状態はよくなかったため、メンテナンスが必要でしたが、2014年にロシアがクリミア侵攻を行っていたこともあり、Rosoboronexportとの取引は不可能。そこで、目を向けられたのがウクライナでした。2014年以降、ロシアと対立するウクライナは兼ねてから独自にMi-17のオーバーホールを実施、スペアパーツの製造を行うなど、既に中東やアフリカからメンテナンスの業務を請け負っていました。アメリカは少なくとも5機のMi-17をメンテナンスのためにウクライナに送ります。ロシアの侵攻が始まった時、この5機はまだウクライナ国内にありました。アメリカが侵攻初期に提供した最初の5機というのは、メンテナンスのために送られていたものをそのまま提供したものになります。
⚡️United States hands over three more Russian Mi-17 (Mi-8MT) multi-role helicopters previously purchased by the United States for the Afghan Army to the Armed Forces of Ukraine.#Ukraine pic.twitter.com/q8H99URqnY
— 🇺🇦Ukraine News Live🇺🇦 (@UkraineNewsLive) May 18, 2022
ウクライナに提供された機体はその後、ウクライナの環境とウクライナ軍仕様に合わせる形で再ペイントされ、戦線に投入されます。
侵攻初期の圧倒的航空劣勢ではなくなったウクライナ軍は5月以降、ヘリ部隊も積極的に投入、兵員輸送や負傷兵の運搬の他に攻撃ヘリとしても活躍しています。また、アメリカが提供した155mm榴弾砲M777は重量約4.2トンでMi-17でロープ牽引して輸送することが可能であり、迅速な砲兵陣地の展開を可能にしています。
mod ukraineウクライナ南東部の港湾都市マリウポリがロシア軍によって制圧される前、アゾフスタル製鉄所に立て籠もり、最後まで抵抗を続けたアゾフ連隊。彼らがロシア軍に包囲されながらも82日間という長期に渡って抵抗を続けられたの[…]
5月末には16機のMi-17からなる輸送部隊が82日間に渡ってマリウポリのアゾフスタル製鉄所で抵抗を続けていたアゾフ大隊に7度に渡る決死の輸送作戦を実施し、弾薬や食料、兵員を輸送していたことが明らかになりました。この作戦では3機のMi-17を失っています。
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