ドイツ陸軍はG36に代わる新しいアサルトライフルとして国内メーカーのヘッケラー＆コッホ（Heckler&Koch：H&K）社 の HK416A8を選択。H&K社はヘーネル（CG Haenel）社との2年に渡る争いの上、ヘーネル社のMK556の決定を覆しました。
当初、ドイツ国防省はMK556を選択
ドイツ国防省は2020年9月15日火曜日、老朽化し、問題があったG36に取って代わる次期主力小銃としてチューリンゲン州の銃火器製造会社であるCG Haenel（ヘーネル）社が開発製造する「MK556アサルトライフル」を選択しました。ヘーネル社は契約額、延べ2億4500万ユーロ以上で120,000挺のMK556をドイツ軍に納入する契約を獲得しました。ドイツ陸軍の次期小銃はG36を開発製造するなど60年に渡ってドイツ軍に銃器を供給してきた銃器大手のH&K社のHK416が最有力と見られ、業界内では出来レースという声もあったので、MK556の選択は周囲を驚かせました。決定について競合他社は2週間以内であれば異議を唱えることができ、特に何もなければ、年末の議会承認を経て、正式にMK556の契約が最終承認される筈でした。
H&K社が異議を唱える
しかし、この異議申し立て期間の間に決定に敗れたH&K社が異議を唱えます。同社は60項目にわたる理由を320ページもの内容にまとめたレポートを提出し、上訴。
まず、新小銃のテスト評価を行ったのは数年前にH&Kが製造するG36の欠陥を指摘した技術者で、その時はH&Kは異議を唱え、その後の法廷での争いで欠陥がなかったことが立証されいます。そのため、今回のテスト結果について技術者の主観があったのではとH&Kは不信感を持っていました。
次にMK556の価格が安すぎる点です。一説によるとヘーネルとH＆Kの入札価格には5000万ユーロ程の開きがあったといわれています。これはヘーネル社が不当な安い価格で叩き売りするダンピングで採算が取れないのではないかと指摘。ビジネスの世界では、実績がない会社が採算を度外視して競合よりも安価に受注して、実績を作ることで次のビジネスに繋げてコストを回収ということはよくあります。しかし、これは公共事業であり、違法だと訴えています。
そして、ヘーネル社の社員規模はH&K社の1000人に対して、120人しかいません。この企業数で12万挺の小銃を開発するのは不可能だと訴えており、実際はアラブ首長国（UAE）にある親会社の”カラカル社”が製造するのではないかと指摘しています。
特許侵害が最大の理由
更にH&K社はMK556が同社のHK416の特許を侵害していると訴えます。
特許侵害があるとされたのがMK556の武器ロックシステムとマガジンのオーバーザビーチ機能に関連する部分です。オーバーザビーチ能力とは銃器内に浸透した水を逃がす設計原理です。H&Kが指摘した特許はドイツ国内では適用されませんが、ヨーロッパの特許であるため、EUの他の国で有効になります。この特許侵害についてはヘーネル社は異議を唱え裁判所で争われることになり、特許侵害の可能性が完全に否定できないため、ドイツ国防省はこれを理由にヘーネル社との契約をキャンセル、ドイツ軍の次期小銃の決定は振り出しに戻ります。そして、長い法廷闘争の末、H&K社に軍配が上がり、今回のHK416A8の採用に至りました。H&K社はドイツ陸軍向けに118,718挺のHK416A8を製造する2億900万ユーロの契約を得ます。初期ロッドの納入は2024年を予定しています。
HK416A8とは
HK416はアメリカ陸軍の依頼でM4カービンの改修版として開発された5.56mm小銃です。外観などはM4の系譜を継いでいますが、M4とは異なるガス方式ショートストロークピストン式を採用するなど中身は異なり、耐久性、精度が向上しています。HK416A8はそんなHK416の最新モデルで、手袋や防寒着を着用しているオペレーターでも使いやすい「ウィンタートリガーガード」を採用するなど、最新の人間工学を取り入れています。HK416A8には16.5インチ(419 mm)バレルのG95A1 と、短い14インチ(356 mm) バレルのG95KA1の2つのバリアントがあります。
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