
アメリカのドナルド・トランプ大統領はドイツに駐留する米軍3万5000人を撤退させ、東欧のハンガリーに移転させる事を検討していると報じられている。ドイツに駐留する米軍は欧州全体の抑止・防衛の要でもあり、米国と欧州NATOを結ぶ兵站・訓練・医療の拠点だ。移転は米国と欧州に新たな亀裂を生む恐れがある。
イギリスメディアのテレグラフによるとドナルド・トランプ大統領は、米軍をドイツから撤退させ、東ヨーロッパのハンガリーに再配備することを検討している。トランプ大統領は欧州は防衛力の強化にさらに力を入れなければならないと繰り返し警告しており、その脅しの一環ともみれる。NATO各国は防衛費をGDP比2%に上げる事を目標にしており、ドイツ、イギリスなどは2024年に達成している。しかし、トランプ氏はそれを5%に引き上げるよう更に要求している。これは米国も達成していない数値であり、ポーランドが唯一、25年の防衛費がGDP比4.7%と近い数字を達成する見込みだ。アメリカはGDP目標を達成するために防衛費を増額した加盟国に重点を置いて、欧州に駐留する米軍の一部を再配置することを検討しているという。米国国家安全保障担当報道官のブライアン・ヒューズ氏は「具体的な発表はないが、米軍は国家安全保障上の利益に対する現在の脅威に最善の形で対処するため、常に世界中で部隊を再配置することを検討している」と述べている。米軍は現在16万人の兵を海外に駐留させており、その内10万人を欧州に配備。3万5000人がドイツに駐留しており、欧州の国別では最大規模になるが、それを移転させる計画という。
であれば、GDP比4.7%を計画しているポーランドに配置すべきだろう。ウクライナ、ロシアの飛び地カリーニングラード、ロシアの衛星国ベラルーシと隣接している。しかし、トランプ大統領は、欧州が「戦争を推し進めている」ことに苛立ちを募らせていると政権に近い筋が語っており、ウクライナを全面的に支持するポーランドに米軍を増派する気はないようだ。そこで、計画に上がっているのがハンガリーとされている。しかし、ハンガリーの2024年の防衛費はGDP比は2.14%。世界中が防衛費を増やす中、2025年の防衛費のGDP比は2.12%とむしろ減っており、トランプ氏の主張と真逆の方針をとっている。それなのになぜ、トランプ大統領はハンガリーに移設する事を検討しているのか。
欧州NATOで唯一のロシアより
今やロシアよりの国になったと否めないアメリカだが、ハンガリーもNATO加盟国でありながら、ロシア・ウクライナ戦争ではウクライナへの軍事支援を一切行っておらず、むしろロシア寄りの姿勢を見せている。ハンガリーのオルバン首相はロシアによるウクライナ侵攻以降もロシアのプーチン大統領と緊密な関係を保っており、ロシアを訪問し、プーチン氏と会談も行っている。EU各国がロシアへの経済制裁として天然ガスや石油の輸入を減らした際も変わらず輸入を続け、むしろ拡大させた。ロシアがウクライナ侵攻を開始してから3年がたった2月24日に国連総会に提出された「ウクライナにおける包括的、公正かつ永続的な平和の推進」決議にハンガリーは、米国やロシア、イスラエル、ベラルーシ、北朝鮮などと並んで反対票を投じ、3月6日に開催されたEU首脳特別会議ではオルバン首相はウクライナ支援に関する声明への署名を拒否した。ハンガリーはロシアによるウクライナ侵攻以降、一貫してウクライナよりの政策に反対している。オルバン首相はEUがウクライナを支援し防衛費を増額することは「欧州を破滅させる」と主張している。この点がトランプ大統領と馬が合うのだろう。自身のSNSでも米国の和平案、トランプ大統領を支持する声明を出している。
ただ、実際にドイツから米軍を撤退させる事は容易ではない。トランプ大統領は最初の任期時の2020年9月に、今回と同様の理由でドイツからおよそ1万2000人の兵士の撤退を命じた。国防総省は計画を実行に移すには数年はかかる見通しであるのと受け入れ設備の建設など数十億ドルの追加予算が必要と発表。また、米議会からは与党も含め猛烈な反発を受けた。結局、その後、バイデン政権に代わり計画は中止されている。そもそも、ドイツの米軍は欧州だけではなく中東、アフリカに展開する米軍の拠点でもある。トランプ大統領は欧州大陸にこれほど大規模な部隊を駐留させる必要性を改めて疑問視しているとされ、欧州の外交官3人は、約2万人の米兵が欧州大陸から撤退すると予想していると報告している。むしろ移転よりも撤退する可能性も否定できない。