ウクライナ軍は自軍のスナイパーが2,710ｍ離れた先にいるロシア兵を狙撃したと発表しました。事実であれば、世界３位の狙撃記録になります。
Sniper of the Ukrainian National Guard firing at 2 Russian infantrymen.#Russia #Ukraine pic.twitter.com/OUqY4umkp0
— BlueSauron👁️ (@Blue_Sauron) November 11, 2022
ウクライナ軍戦略司令部はその狙撃を達成したとされる映像をテレグラムで公開しました。映像はサーマルカメラで撮影されたもので、林の中を移動する白い人影を捕えています。映像を見る限りでは画面のブレから少なくとも４発撃っていることが分かります。その内、何発が当たったのか不明ですが、動きを止めて倒れこんだところをとどめを指しているように見えます。
1位と2位の記録
これまでの狙撃の世界記録は2017年5月のイラクにてカナダ軍特殊作戦司令部傘下の特殊部隊JTF-2所属のスナイパーが記録した3,540mです。12.7ｍｍ、50口径のTAC-50ライフルで達成しています。3,540ｍという距離は発射から目標まで10秒もかかります。そして、2位が2012年4月のアフガニスタンでオーストラリア軍第2コマンド大隊特殊部隊所属のスナイパーが記録した2,815mになり、使用したライフルは50口径のバレットM82A1です。ウクライナ軍は世界2位と言っていますが、今回、記録した2,710ｍはこれに継ぐ３位の記録となります。
とはいえ、2,000mを越える超長距離狙撃は非常に難易度の高い狙撃で一流のスナイパー、一流のスポッターではないと達成できない記録で、そうそう成功するものではありません。ただ、この狙撃を立証するデータはないため、真偽は不明です。ウクライナ側のプロパガンダという可能性もあります。しかし、ウクライナ軍にはこれだけの長距離狙撃を達成できるだけの国産スナイパーライフルを複数配備しています。
T-RexとAlligator
その一つが、ウクライナの銃器メーカーで対物ライフルを専門に開発するSnipex社の銃です。同社はT-RexとAlligatorという銃を開発製造しており、共に14.5×114mm口径を有する大型の対物ライフルです。T-Rexは単発型のボルトアクション式、Alligatorは同じボルトアクション式ですが、５発装填のマガジン供給型でT-Rexよりも発射スピードに優れています。公表されている有効射程は2,000mですが、実際は最大3,000ｍ程度まで威力を発揮します。1位、2位の記録を達成したTAC-50やバレットM82A1も有効射程は1500～2000ｍと言われていますが、条件が整えば3,000m以上の射撃も可能です。今回の戦争でT-RexとAlligatorは共にウクライナ軍で使用されていることが確認されています。
© 1991-2020 XADO Chemical Group.XADOグループ傘下のウクライナの銃器メーカー”Snipex”社は、自社で開発する対物・アンチマテリアルライフル、T-Rex（ティーレックス）とAlligator（ア[…]
PG-14.5 Nichny Khizhak
そして、もう一つがナイトプレデタースナイパーライフルと呼ばれる「PG-14.5 Nichny Khizhak(ニクニー・キザック)」です。
PG-14.5はウクライナの軍需企業ウクロボロンプロムの一部である、キエフの “Mayak（マヤック）”工場によって2015年に開発された14.5x114mmの大口径対物ライフルで、「歩兵砲」とも言われています。
PG-14.5はシングルショットのボルトアクション式になり、発射速度は毎分6発です。新世代のサウンドモデレーター（サプレッサー）が装備されており、大口径ながら発射音は小さく、発射時のマズルフラッシュもありません。弾丸の弾道は内部から外部にスムーズに移行され、反動は7.62mmライフルの反動よりも小さく、ショット後の射手、銃への影響は最小限に抑えられます。銃本体は冷却性に優れ、激しい戦闘の中でも熱は人体と同じ温度を保ち、銃器としてのサーモカメラからの検出を難しくします。
そして、何より、注目すべきはその射程です。最大射程は4,000ｍになり、今回の射撃記録を十分射程内に収めます。精度も高く、テストでは5発の内4発が3km先の直径100cmの円を撃ちました。ただ、難点としては重さで、重量はなんと32.96kg。サプレッサーを外せば22.29kgまで下がりますが、それでもかなりの重量で、携行しながらの移動は大変です。
ここ数年、強力な大口径ライフルを立て続けに開発するウクライナ。ナイトプレデタースナイパーライフルと呼ばれる「PG-14.5 Nichny Khizhak(ニクニー・キザック)」はそんな大口径ライフルの中でも最強かもしれません。[…]
T-RexとAlligator、PG-14.5は共に対戦車ライフル弾としてソ連で開発された14.5x114mm弾を使用します。装甲車の装甲を貫通する威力を持っており、人であれば吹き飛ばされます。有効射程外の長距離であれば、運動エネルギーがだいぶ低下はしているかもしれませんが、それでも相当の威力を保持しています。
今回の狙撃を記録した銃は公表されていないため、実際のところ、T-RexとAlligator、PG-14.5が使われたのかわかりません。ウクライナ軍はTAC-50やM82といった西側の狙撃銃も多数、軍事支援として受け取っており、これらを使用した可能性もあります。
